丸山隆平が考える現代社会に対する価値観 佐藤二朗との共演で意識したプロとしての距離感

プロとしての距離感

——照夫は幼少期の太郎にとってすごく重要な存在だったと思いますが、丸山さんは照夫をどんな人物だったと思って演じていましたか?
丸山:何か光のようでもありながら、発している言葉がどれだけ太郎に届いているのかはいまいち見えない……。観ている側にとっては、最初はもしかしたら“光”なのかなと感じられる関係性ではありながら、なぜ太郎がああなってしまったのかという鍵になる人物でもある。あれがもし照夫ではなかったらどうなのかという考えもありますからね。優しく包み込む、圧倒的な父性があるとも思えないし、どこにでもいそうな気ままなおっさんという部分もあるだろうと思います。ただ、照夫にしか触れられなかった部分はあると思います。太郎も彼の息子と同じ空を描くという点で、どこか太郎のことを他人事のようには思えなかった。だからこそかけられた言葉もあるし、そういう二人の絶妙な関係性ややりとりは求められていた部分だと思うし、同時に照夫なりの自分の職務でもあるというところですかね。太郎にとってどうだったかというのはわからないけど、もしかしたら大人の中では一番近かった存在なのかもしれないですよね。

——演じているなかで特に試行錯誤した部分はありますか?
丸山:自分の中で考えるというよりは、現場で監督が作る空気と、子どもたちがそこにいてやり取りしている雰囲気の中でフレッシュに出てくるものを、照夫なりにトッピングしていたという感じです。照夫は太郎のことをそこまで特別視していないからよかったのだと思います。単純に孤児を保護したという意味では、自分の職務としてとても真っ当な立ち振る舞いではあった。太郎の特殊性についてはなんとなく気づいていながら、どこか照夫の独特の鈍感さみたいな部分のおかげで、あまり特別視しすぎなかったところが太郎にとってもよかったのかなと。多くの大人は「普通に空を描け」「普通にやれ」と言うけれど、太郎の絵を見て「もしかしたらうちの子と同じ空がこの子にも見えているのかな」と思えたのは、息子のおかげで、そこまで“一般性”、“平均”を求めるような大人ではなかったからだと思います。でもなぜ息子が黒い空を描くのかは自分もわからないから、太郎と接することでそれがわかるかもと考えた部分もある。太郎をどうこうしたいというよりは、自分も息子の思想・思考を知りたかったという動機もあったと思うし、他人のためという動機だけで動けるような、そこまで綺麗なできた人間ではないと思います。

——太郎が子供だった頃のシーンには丸山さんもたくさん出演されていましたが、特に印象に残っているシーンはありますか?
丸山:和彦(幼少期の太郎役)の目はすごく印象的でしたね。何も語らない分、目でのお芝居というか、何かに飢えていたり何かを求めているのか、あるいは諦めているのかといった感情を、観る側がいろいろな想像ができるような演出のもとでのお芝居になっていたと思うから、すごく印象的でした。
——観ている側としてはずっと緊迫感がありましたが、現場はどんな雰囲気だったのでしょうか?
丸山:僕はあまり距離を縮めすぎないように気をつけていました。ほとんどスタッフさんとかと話していました。あまり和彦とは喋りすぎないようには心がけました。
——近すぎるとよくないと判断して?
丸山:作中の関係性は絶妙な距離じゃないですか。俳優同士の距離が透けて出たら嫌だなと思ったし、一定の距離で集中してもらわなきゃいけないし、自分もそれどころじゃない。集中したいという意味でプロとしての距離は保っておきたいなと。でも現場は明るかったですよ。スタッフさんもわりとニコニコしながら動きつつ、集中するときは集中するような、メリハリのある現場でした。
佐藤二朗の演技の凄み

——佐藤二朗さん演じる大人になった太郎が登場するシーンの中で、丸山さんなりに気になった場面はありますか?
丸山:太郎が「あ、もう全部手放したな」と感じられるシーンがあるんですが、そのシーンでの佐藤さんの表情の変わり具合が僕はすごく好みでした。あのシーンはしびれましたね。
——「名付けられているもの」に触れられない悲しみや孤独が、佐藤さんの演技力で見事に表現されていたと思います。本作の根幹にも関わる、何かに「名前を付けること」の大切さについてどう思いますか?

丸山:僕はそんなに物に執着がないくせに、家にめちゃくちゃ物が多いんですよね。イエティのぬいぐるみとかに名前を付けたりもするんですけど、そういうことするわりにすごく大事にするわけでもないし……。ひどいときは自分の物にカビが生えちゃったりして、こういう話をすると自分でも「物に対して不作法なやつだな」と思うんですよ。それこそお寿司屋さんの板前さんが長年愛用している“技物”の包丁なんてありますよね。やっぱりずっと大事にされてきたからこそ綺麗なんだと思いますが、ああいうものを見ると憧れます。僕も友人からもらった包丁があるんですが、研ぐのに失敗しちゃったりしていつも大事にできなくて。そういうことには逆に寂しさを感じますね。そっち側のモンスター作ろうかな(笑)? “物を大事にできない”モンスター。大事にしようとするんだけど壊してしまう。
——太郎もまさにそういう寂しさを抱えていますよね。
丸山:一緒だな。もしかしたら僕が太郎なのかもしれないですね。でも同じような人は実はいると思いますよ。大事に思っているのにその人のことを傷つけてしまうとか、大事に言葉を投げかけたはずなのに傷つけてしまうとか。特に幼少期なんて平気でカマキリとかコオロギを解体したりしていたじゃないですか。そういう幼児的な狂気性のようなものは社会人になったらなくなっていくんですが、なかなか僕みたいに、どうしてか大事にできなかったり時々傷つけてしまうようなことはありますよね。『名無し』のような作品に出会うと、そういうことを思い直す気がします。
■公開情報
『名無し』
全国公開中
出演:佐藤二朗、丸山隆平、MEGUMI、佐々木蔵之介
脚本:佐藤二朗
監督:城定秀夫
原作:佐藤二朗『名無し』(HERO'S Web)
主題歌:Novel Core「名前」(B-ME)
配給:キノフィルムズ
2026年/日本/カラー/PG12
©佐藤二朗 永田諒 / ヒーローズ ©映画『名無し』FILM PARTNERS
公式サイト:https://774movie.jp
公式X(旧Twitter):@774movie























