黒木華の長台詞が“きれいごと”にならない理由 『銀河の一票』が描く嘘のない政治への渇望

『銀河の一票』(カンテレ・フジテレビ系)は、東京都知事選挙を題材にした政治ドラマだが、その台詞の力に毎週圧倒されている。
本作の主人公・星野茉莉(黒木華)は、与党である民政党幹事長・星野鷹臣(坂東彌十郎)の娘。父親の秘書として働きながら、いずれは都知事になって東京から国政を変えたいという夢を持っていた。
ある日、幹事長室に大学病院の学部長の転落死を報じた新聞記事と「あなたが殺した」と書かれた手紙が入った告発文が届く。茉莉は転落死に父親が関わっているのではないかと疑い、事件の真相を調べようとする。だが、事件について相談した幼なじみの民政党・衆議院議員の日山流星(松下洸平)が父親にリークしたことで、茉莉は議員秘書を解雇され、家から追い出されてしまう。

途方に暮れる茉莉だったが、偶然知り合った「スナックとし子」のママ・月岡あかり(野呂佳代)の人間的魅力に触れたことで救いを感じる。同じ頃、都知事が辞任したことで50日以内に都知事選が開催されることが決定。茉莉は政界に返り咲くために、あかりに都知事になってもらい自分を副知事に指名してもらうしかないと考え、都知事選に出馬してほしいとあかりに頼み込む。
本作の脚本は、辞書編纂に人生を捧げた人々の姿を描いたヒューマンドラマ『舟を編む ~私、辞書つくります~』(NHK)や、区議会議員選挙を題材にした政治ドラマ『日本一の最低男 ※私の家族はニセモノだった』(フジテレビ系)などを手掛けた蛭田直美が担当している。
テーマに対する掘り下げの深さと、登場人物の内面を会話劇によって丁寧に紡ぎ出す真摯な姿勢がドラマファンから高い評価を獲得している蛭田だが、今回の『銀河の一票』も「政治」という難しいテーマに真正面から挑んでいる。
“染みついたあざとさ”に対する自己嫌悪

これまで放送された第1~3話では、茉莉があかりに都知事選出馬を要請する中で、2人の信頼関係が深まっていく様子が丁寧に描かれていた。
興味深いのは、茉莉があかりに褒められるたびに「これはテクニックなのだ」とわざわざ説明するところだ。第2話で茉莉は、東京モデルで日本を変えようと流暢な言葉であかりを説得するのだが、すぐに「染みついた腹黒さが」と言って、あかりを動かせそうな言葉をあざとく並べたことに自己嫌悪する。
また第1話で、流星と話している時の茉莉は「簡単だよね国民って」と言い、世論誘導の言葉に引っかかる国民を見下していた。しかし、「スナックとし子」の客たちが政治について「自分のことで精いっぱい」「よく分かんない」「手が届かない」と口にする姿を見て、「届かないって、変えられないって思わせてしまって、『国民って簡単』とか言ってしまって、本当にごめんなさい」と謝罪する。

他にも第3話で、成年後見人の弁護士・武林圭吾(中山求一郎)と対峙した際、武林の名前を憶えていたことをあかりに褒められると「染みついたあざとさです」と吐露。交渉や会談の成功率が上がるネームコーリング効果を狙って名前を呼んでいたことを明かした。
政治家の父親を間近で見て、政治秘書として働いてきた茉莉には、自分に有利な方向に話を進めるためのスキルが血肉化しており、その振る舞いが自然とできてしまう。だがそれは詐欺師の手口と紙一重であり、息を吸うように嘘をついてきた自分のことを彼女は嫌悪していた。
それでも、正しいことをするためには清濁併せ呑み、穢れを引き受けた先にしか正しいことはできないと思って生きてきたのだ。しかし父と決裂し、あかりと出会ったことで、嘘をつかない生き方、迷った時は暗い方ではなく明るい方に向かう生き方をしたいと思うようになった。
自分の理想を素直に語る茉莉の長台詞には強い力があり、深く感銘を受ける。だが、この長台詞が上辺だけのきれいごとにならないよう、本作は細心の注意を払っている。あかりに褒められるたびに、茉莉が「自分のやったことは政治家として人を丸め込むためのテクニックだ」と説明するのもそのためだ。





















