『プラダを着た悪魔2』は“理想”を体現した続編に 前作を凌駕する挑戦心と奥深さを解説

アンディは前作では、あまりファッションに興味がない若者として登場した。着るもののことばかり考えている人物は外見ばかりで中身がないのだと、内心軽蔑していたのだ。ミランダは、そんなアンディの心を見透かしたように反撃する。アンディの着ているセーターの色、セルリアンブルーについて、どれだけそこに背景があるかを説明することで、ファッションに注がれた先人たちの情熱と狂気の一端を垣間見せるのである。
こうしたミランダのプロフェッショナルな態度は、本作におけるエミリーとのやり取りでも理解できる。エミリーは、もともと第一秘書としてミランダを支える存在だったが、ミランダからの勧めによって、彼女は「ディオール」アメリカ旗艦店の責任者に就任していたのだ。そしてそれは、雑誌の編集者としての才能を欠いていたからだと明かすのであった。
その所業は一見、やはり悪魔のようであるが、ことさらエミリーを侮辱したいためではないだろう。ミランダは、彼女の資質を小売業に適任と見抜き、成功できる最善の道を用意したのではないのか。一方、記事の質によって雑誌の評判を上げているアンディには、一定の評価を与えている。こういった対応は、あらゆる資質を見極める編集長としてのミランダの能力の高さと、部下への秘めた愛情を示しているのだ。
事態を収束する展開については、物語に突如として絶対的な存在が現れ、問題を解決するといった、ギリシア演劇の手法「デウス・エクス・マキナ」だと指摘する声もある。だが先述したように、本作の結末はそうした強引なものではなく、ミランダやナイジェル、アンディたちのそれぞれの情熱と確かな技術があってこそ、新たな経営者の信頼を獲得することができたと考えるべきだ。
そもそもミランダがこれまで絶対的な存在でいられたのは、彼女が世界のファッション界のトレンドを生み出す源泉の一つであったからだ。長らくファッションの流行は、有力なメゾンとデザイナーがパリやミラノなどで新作を華々しく発表し、それを編集者や批評家が評価し、バイヤーやトレンド予想企業が市場の動きを読んで、スタイリストやインフルエンサーがアイテムを利用することで、メインストリームが生み出されてきた。
近年、そうした枠組みが崩されてきているのは確かだ。業界の売り上げトップであるファストファッション企業の「ZARA」は、これまでメゾンがコレクションを発表し、雑誌がその試みを解釈、百貨店が仕入れて半年後に一般流通されるといった枠組みを越え、名だたるメゾンのコレクションが生み出すトレンド性をいち早く参考にしてデザインに起こし、小ロットで安価に商品化するといった手法を確立させ、ファッションを大幅に大衆化した。この構造を省略化したビジネスにより、雑誌以降のトレンドリーダーの影響力は弱まることになったといえる。
現在、台風の目となっている「SHEIN」は、さらに一歩進んでいる。どのような商品が売れるのかを、販売データや検索データ、SNSでの注目度などをアルゴリズムとして判断して生産につなげるのである。ここでは、もはや職人的なデザインやバイヤーの判断よりも、インターネットに露出された即時的な感覚とデータの正確な利用が優先されることになる。
つまり、トレンドの直接的な源泉部分に、小売が手をかけている状態といえるのだ。今後、そこにAIが導入されることで、テクノロジーの進化と効率化のなかでデザイナーすら不要とされる状況が訪れるのかもしれない。そうした事態はファッション業界だけではない。現在、利益の最大化を求めて、さまざまな業界のクリエイティブな業種が危機を迎えているのだ。
そしてそれは、これまで文化を盛り上げてきた職人たちの文化、例えば本作の『ランウェイ』が体現する、職人的な情熱と狂気といった、人間たちの魂が継承されなくなることを意味しているのではないか。AIは、既存のプロダクトを参考にしているに過ぎない。ミランダやナイジェルのような知識やセンスの積み上げを人間が担当しなくなれば、誰が新たな息吹を業界に与えるというのか。
新経営者は温情ではなく、そうした人間の力にこそ対価を払うべきであり、人間同士の文化の継承にこそ未来があると判断したのではないだろうか。以前よりもさまざまな人種や個性、新世代が加わった『ランウェイ』編集部が、それぞれに自分の仕事に没頭する本作のラストシーンは、まさに職人讃歌であり、ファッションの歴史の讃歌だといえるだろう。そこには先の未来ではなく、その先の先の未来を見越した、普遍的な希望が存在するのである。
そんなラストシーンでアンディが着ていたのは、セルリアンブルーのニットベストだった。長らくファッション業界から離れていた彼女は、それでも自分なりにファッションの魅力に目覚め、地方で「メゾンマルジェラ(Maison Margiela)」のアイテムを安価に手に入れて楽しむなど、彼女自身のライフスタイルに、職人的な魂を組み込んでいたことが、冒頭で示される。
前作で「ダサい」と言われていた服の色を、アンディが再びラストシーンで採り入れているのは、彼女が当初持っていた本来の感性と、その後に手に入れたファッション知識の裏付けとが、幸福に手を結んだことを表現している。つまり、アンディは紆余曲折を経て、自分の能力をファッション業界で活かす道を見つけたということを、このファッションに象徴させてあるのである。そう考えれば、前作で仕事を途中で放り投げてしまった経験までもが、本作で大きな実を結んだことになる。
長い間のブランクを経た続編企画といえば、作品自体が同窓会のような内容に終始してしまうことが少なくない。しかし本作は、いままさに激動の時を迎え、かつての憧れの職が危機と対峙しなければならないという、現実の困難な状況を描きつつ、その問題への誠実かつ感動的な解答までをも導き出した、優れた一作となっている。その挑戦心と奥深さには、前作を凌駕するものがあるのではないだろうか。だとすれば、『プラダを着た悪魔2』は、続編映画はこのようにあってほしいという、一つの理想を体現した映画に仕上がっているといえるのだ。
■公開情報
『プラダを着た悪魔2』
全国公開中
出演:メリル・ストリープ、アン・ハサウェイ、エミリー・ブラント、スタンリー・トゥッチ、トレイシー・トムズ、ティボー・フェルドマン、ケネス・ブラナー、シモーヌ・アシュリー、ジャスティン・セロー、ルーシー・リュー、パトリック・ブラモール、ケイレブ・ヒーロン、ヘレン・J・シェン、ポーリーン・シャラメ、B・J・ノヴァク、コンラッド・リカモラ
監督:デヴィッド・フランケル
脚本:アライン・ブロッシュ・マッケンナ
ー、ルーシー・リュー、パトリック・ブラモール、ケイレブ・ヒーロン、ヘレン・J・シェン、ポーリーン・シャラメ、B・J・ノヴァク、コンラッド・リカモラ
配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン
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