『風、薫る』は“新しい朝ドラ”を作ろうとしている 「また間違えた」に込められた真意

それは、りんが繰り返し言う「また間違えた」という台詞に強く表れている。
りんの村でコロリが流行り、幼なじみの虎太郎(小林虎之介)の母親がコロリにかかり避病院に入ったことで、虎太郎は落ち込む。りんは虎太郎を慰めるために手を握ろうとするが、周囲の目を気にして寸前で止めてしまう。そのことをりんは悔やみ、「間違えた」と思うのだ。
そんなりんに、父の信右衛門は論語の一節を引用し、「人は間違える。だが過ちに気付いて改めないことこそが過ちである」とりんに伝え、「正しいとは難しいのう」と言う。その後、りんは大事な局面で自分が失敗したと感じると、「また間違えた」と言うようになる。

朝ドラでは、ヒロインの特徴を際立たせるため、独自の口癖を用意することが多い。それは『あまちゃん』の「じぇじぇじぇ」や『あんぱん』の「たまるか」のような特に意味のない口癖から、『虎に翼』の「はて?」のような作品のテーマに関わるものまで様々だが、どれもキャッチーで、新語・流行語大賞に入るものも少なくない。
しかし、りんの言う「また間違えた」は、朝ドラヒロインの口癖としては重々しく、ネガティブに聞こえるため、気軽に口にできるものではない。だが、論語のくだりを踏まえると、「間違えた」と認めることができること自体を、とてもポジティブな振る舞いとして描いていると言える。
一方、直美は「正しさ」に対して嫌悪感を抱いており、『「正しい」で生きられる幸せな人が嫌い』だと言う。孤児の直美は、家柄の良い人や善人を嫌っており、何より自分のことを嫌いだと言う。元家老の娘という恵まれた家柄ゆえにのんびりとしているりんとは違い、直美はいつもイライラしており周囲に対して心を閉ざしているように見える。しかし、完全に悪に徹することもできない甘さも彼女の中にある。

直美が嫌悪する「正しい」とは、朝ドラがこれまで描いてきた品行方正な世界のことではないかと、筆者は感じる。
「正しさ」に疎外された人や、「間違える」人を主役にすることで、『風、薫る』は新しい朝ドラを作ろうとしているのかもしれない。
■放送情報
2026年度前期 NHK連続テレビ小説『風、薫る』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00~8:15放送/毎週月曜~金曜12:45~13:00再放送
NHK BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜8:15~9:30再放送
NHK BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:見上愛、上坂樹里
脚本:吉澤智子
原案:田中ひかる『明治のナイチンゲール 大関和物語』
制作統括:松園武大
プロデューサー:川口俊介
演出:佐々木善春、橋本万葉ほか
写真提供=NHK






















