『風、薫る』は朝の“医療ドラマ”? 捨松が見出したりん×直美の看護師としての素質

『風、薫る』は朝の“医療ドラマ”?

 りん(見上愛)と直美(上坂樹里)の運命が大きく動き出すNHK連続テレビ小説『風、薫る』第4週がスタート。4月20日放送の第16話で、ついに物語の支柱となる「トレインドナース」というワードが捨松(多部未華子)の口から飛び出した。

 鹿鳴館の婦人慈善会が主催する炊き出しに参加することになった直美。捨松たちと貧民街に向かうと、たまたま吉江(原田泰造)とりんも同じ場所で炊き出しをしていた。身分を偽って鹿鳴館で働く直美は慌てるが、吉江が他人のふりをしてくれたおかげで事なきを得る。そんな直美をよそに、以前ケガの手当てをしてくれた捨松との再会を喜ぶりん。2人がまさか知り合いとは思ってもみなかった直美は、恐れ多くも捨松と親しげに話すりんの姿に驚いたようだ。これから運命を共にする3人の邂逅に胸が躍った。

 さて、炊き出しは大盛況となったが、途中でちょっとした騒ぎが起きる。炊き出しの料理を食べた男の子が突然吐いてしまったのだ。当時、日本では全国的にコレラが流行しており、人々が感染症を恐れて一斉に退く中、いの一番に子どもに駆け寄っていったのはりん。次いで直美も2人のそばに行き、手当てを始める。最初は様子を見守っていた捨松も、2人の不慣れな対応を見かねて近くにやってきた。

 陸軍卿・大山巌(髙嶋政宏)の妻ともあろう人間に病人の介抱をさせることは憚られた直美だが、「病人を前にして立場など関係ありません!」と一刀両断する捨松。そんな彼女のりんたちに対する指示は的確だった。再嘔吐の可能性があるため、いきなり水を飲ませるのではなく、まずは口をゆすぐ程度に。吐瀉物や口から出した水はそのまま流さず、感染が広がらないようにゴミとして処理する。どれも今に伝わる嘔吐時の対処法だ。一連のシーンで物語は一気に医療ドラマとしての様相を帯びる。

 それほどまでに捨松が病人への対処を心得ているのは、アメリカ留学時に現地の学校でナースの訓練を受けていたからだった。正規の訓練を受け、医術や衛生などの看護の技術を持った専門家を、西洋では「トレインドナース」と呼ぶ。後日、捨松に呼び出されたりんと直美は「あなた方、トレインドナースになりませんか?」と持ちかけられるが、2人ともその言葉の意味を理解することができなかった。それも当然のこと。男の子が嘔吐したときの人々の反応を見れば、当時、病がどれほど穢れとして忌み嫌われていたかがよく分かるだろう。看護という概念はまだなく、病人や怪我人の看病はその家族、あるいは貧しい人がお金欲しさに危険を冒してする仕事という認識であり、差別の対象だった。

 だが、捨松は西洋においてナースは人々に尊敬される仕事であることを伝えた上で、「どうして看病をする人たちが蔑まれなければならないのですか? 私は、そんな私たちの社会を変えたいのです」と訴える。日々を生きるのに精一杯な2人にとっては、あまりに大きい「社会(Society)」という言葉。その社会を自ら変えようとする捨松の意志の強い眼差しに魅せられた。

 しかし、直美は捨松に指名されたことに納得がいかない。生きるために汚い手も使ってきた自分が、人様のために尽くす仕事に向いているとは到底思えないのだろう。そんな直美に、捨松は「私は今日、直美さんは当然のように弱き者のそばに立てる人だと感じましたよ」と語りかける。直美もりんもあの瞬間、迷うことなく子どものもとに駆け寄っていった。目の前で苦しんでいる人がいたら、考えるよりも先に足が動く。それこそが、何よりの看護師としての素質なのではないだろうか。捨松が新たに作る看護師の養成所では、格安で授業が受けられるだけなく、3食付きの寮も完備されている。看護師になれば、給金は月にマックスで30円。同時代を生きた『ばけばけ』のトキ(高石あかり)がヘブン(トミー・バストウ)の女中時代にもらっていた月20円よりも高い。当時としてはかなりの高給取りだ。そんな希望ある申し出とは裏腹に、「とかく人の世は、自分の思ったようには行かないものでね」という研ナオコの語りと暗めのBGMが不穏さを残していく回だった。

■放送情報
2026年度前期 NHK連続テレビ小説『風、薫る』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00~8:15放送/毎週月曜~金曜12:45~13:00再放送
NHK BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜8:15~9:30再放送
NHK BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:見上愛、上坂樹里
脚本:吉澤智子
原案:田中ひかる『明治のナイチンゲール 大関和物語』
制作統括:松園武大
プロデューサー:川口俊介
演出:佐々木善春、橋本万葉ほか
写真提供=NHK

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