『天気の子』から『炎上』、そして“悪女”へ 森七菜が歩んだ10年と塗り替えられる新境地

森七菜が歩んだ10年と塗り替えられる新境地

 そして2025年は森にとって、本領発揮と新境地を切り拓く役柄の両輪で駆け抜けた1年になったのは誰もが知るところだろう。塚原あゆ子監督と脚本家の坂元裕二がタッグを組んだ映画『ファーストキス 1ST KISS』に出演したことを皮切りに、4本の長編映画に出演。新型コロナウイルスが広がる豪華客船を舞台に、パンデミックの最中に起きていた事実を元にして描かれた『フロントライン』では、日本人医師と乗客の橋渡し役を引き受けるクルー・羽鳥寛子のまっすぐな思いが胸を打つ。2025年の映画界を席巻した『国宝』では、主人公・喜久雄(吉沢亮)を慕う歌舞伎役者の娘・彰子を演じた際、喜久雄に惹かれて献身的にその身を捧げる姿から、彼女の心が離れていく去り際の表情まで、美しくも残酷に映し出される芸の道を彩った。これまで演じてきた純粋無垢な役柄のイメージを脱ぎ捨て、新境地を開拓する姿を世の中に知らしめた本作での活躍によって、森は第49回日本アカデミー賞優秀助演女優賞を受賞する。

『ファーストキス 1ST KISS』©2025「1ST KISS」製作委員会

 秋以降もその勢いは止まるところを知らず、映画『秒速5センチメートル』では主人公の遠野貴樹(高校時代:青木柚)に思いを寄せる少女・澄田花苗の届かない恋心を、一つひとつの言葉やさりげない仕草にめぐらせる。青春の煌めきと儚さを100%の純度で小瓶に詰めたような繊細な芝居は、まさに森にしか演じることができないと思わせる眩さがあった。

 さらに、11月に放送がスタートした夜ドラ『ひらやすみ』(NHK総合)では、岡山天音演じる自由人・ヒロトの従姉妹で、美大に入学するために上京してきたなつみを好演。本当に阿佐ヶ谷の平屋でのんびり暮らしながら、今も2人でとりとめのない会話を交わしているのではないかと思うほど、あの“ひらやすみ”の日常に溶け込んでいた姿が懐かしい。本作で演じたなつみは、森の新たな名刺代わりになるキャラクターとして、今も多くの人々の心の余白に棲みついているのではないだろうか。

『炎上』

 そして、4月10日に公開されたばかりの映画『炎上』で単独初主演を飾った森は、親の虐待から逃れるようにしてトー横広場にたどり着いた少女・小林樹理恵として、歌舞伎町に火をつけるにいたる彼女の不安定な心境、熱を帯びては冷めていく感情を生々しく表現する。今まで演じてきたどのキャラクターとも異なる表情、異なる話し方で、さまざまな事情を抱えた子どもたちが集まるトー横を行き来する彼女の姿は、あの場所に“じゅじゅ”という少女が実在していたことを観客に突きつける。今も脳裏に焼きついているのは、痛々しいほどの後悔と憎しみを引きずる森の刹那的な表情だった。

 あらためて森の出演作を振り返ると、名だたる監督たちが携わる撮影現場で、唯一無二の輝きを放っていることがわかる。“悪女”と呼ばれる女性を演じることになった『藁にもすがる獣たち』の出演を経て、その輝きはまた色を変えて、多くの人々を魅了することだろう。そんな彼女の一瞬一瞬の輝きを、これからも見逃すわけにはいかない。

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