『風、薫る』の子ども時代省略は新たな“朝ドラ批評”に 半年間ある物語だからこその期待

『風、薫る』は新たな“朝ドラ批評”に

 りん(見上愛)と直美(上坂樹里)、ふたりの主人公が出会った。朝ドラことNHK連続テレビ小説第114作目『風、薫る』第2週「灯(ともしび)の道」。第1週の試写会見で脚本家の吉澤智子がふたりはなかなか出会わないと言っていたので、どのくらい出会わないのかと心配していたが、第2週の木曜日(第9話)で出会ったのでちょっとホッとした。

 出会いは真風(研ナオコ)の采配らしく、風がふたりを導いた。だがその出会いはあまりいいものではなく、主に直美のほうが士族の出のりんを一方的に敵視している。自身が親に捨てられたから、何をおいても子どもを大事にしてほしいと思っているようで、りんの環(宮島るか)への対応に不満を感じるのだ。りんは別に子どもを大事にしていないわけではない。だがまだ若いからか、つい自分のことでいっぱいいっぱいになる節がある。

 結婚、出産、そして出奔と慌ただしい人生を送るりん。夫・亀吉(三浦貴大)と折り合いが悪く、おりしも家から火が出て、そのまま東京に逃げてきた。頼りにしていた叔父・信勝(齊藤陽一郎)も事業に失敗し頼れない。急いで仕事と住む家を探さないといけなくなって、偶然出会った直美に環を預けて仕事探しに走る。遅くに戻ってきたりんに直美は苛立って頬をはたいてしまう。このまま環が捨てられてしまうかもしれないと自分を重ねて不安だったのだろう。

 こんなふたりがゆくゆくは最強のバディになるのだ。その日が待ち遠しい。

 『風、薫る』で興味深い点は、りんの結婚から破談までが駆け足だったことだ。これまでの朝ドラは結婚、出産、その後を半年かけて描いてきた。そこに、生涯を賭ける仕事もプラスされ、女の一生、あるいは女の半生を半年かけてじっくり視聴するというスタイルが朝ドラの基本形だった。今回は、その基本形を大きく崩して、ドラマになる部分を思い切りはしょっている。

 流行り病で父・信右衛門(北村一輝)を亡くし、家の経済的事情によって意に沿わない結婚をしたりん。夫は酒浸り、姑(根岸季衣)は絵に描いたような息子ファースト。本来の朝ドラはそんな婚家での気苦労を描いてきたがそこは早送り。いろいろ工夫したところで骨子は同じで、リフレインであるという、今回のドラマのはじまり方はある意味、朝ドラ批評でもあるように筆者には感じられた。

 直美のほうも同じく。教会の前に捨てられ、名前もなかった子。聖書から「ナオミ」と名付けられ、教会の人たちに最低限の面倒は見てもらったが、仕事は薄給で、周囲の人たちからは差別的な目で見られている。本来、そんな逆境で踏ん張る姿を描くのが朝ドラだった。例えば、『なつぞら』(2019年度前期)は主人公なつが戦災孤児として生き抜くエピソードや北海道で面倒を見てもらうようになって搾乳の方法を学んだり、メンター的な老人(草刈正雄)と触れ合ったり、2週間かけたこの子ども時代は大変好評だった。

 なぜ、はじまりは子役週がいいのか。それは、第2週でりんの子ども・環が出てきて確信した。子どもは新作朝ドラの象徴なのだ。まだはじまったばかり。生まれたばかりの柔らかな芽のようなもので、少しずつ育っていく。毎日、育つのを見ていると、親しみがわいてくる。朝ドラは、半年続いて、終わると余韻の消えないうち、間髪を入れずに、週明けすぐに新作がはじまってしまう。最初は世界観に慣れる必要がある。それには子役週だ。舞台になる土地の風景とそこで育っていく主人公。そこに、ここからこういう物語がはじまるんだという心の準備ができる。

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