『ばけばけ』ヘブンとの“別れの重さ”に向き合うトキ 止まっていた時間が動き出す

『ばけばけ』ヘブンとの別れに向き合うトキ

 NHK連続テレビ小説『ばけばけ』第124話では、イライザ(シャーロット・ケイト・フォックス)の言葉をきっかけに、トキ(髙石あかり)が改めてヘブンとの別れの重さと向き合うことになった。

 次の朝になっても、トキは布団から出られない。いつもより遅れてようやく起きてきても、表情は沈んだままだ。イライザから投げかけられた言葉が、頭の中で何度も繰り返されているのだろう。周囲は心配するが、本人の中ではまだ整理がつかない。悲しいというより、痛い。しかもその痛みは、誰かを失ったことそのものより、自分のふるまいがその人の人生を損なってしまったのではないかという思い込みから来ている。

 そんなトキのもとへ丈(杉田雷麟)がやってきて、回顧録の中でヘブン(トミー・バストウ)について何か書いてほしいと頼むが、トキはそれをきっぱり断る。ヘブンの最期を台無しにしてしまったという思いが強く、今の自分には語る資格がないと感じているのだろう。司之介(岡部たかし)とフミ(池脇千鶴)は、落ち込むトキをなんとか励まそうと、ヘブンとの楽しかった思い出を口にする。この家らしい、重くしすぎない励まし方だ。少しでもトキの気持ちがほぐれればという思いがあるのだろう。けれどトキは、そのたびに首を振る。楽しかったはずの記憶さえ、今の彼女には素直に受け止められない。「でも」と打ち消すように否定してしまうのは、自分を責める気持ちがそれだけ深く入り込んでいるからだった。

 それでも、ヘブンと結婚したこと、子どもを授かったこと、それはトキにとって間違いなく良かったことではないか。フミの「世界一のママさん」「世界一の家族」という言葉は、ただ励ますためのものではなく、今のトキの暮らしをそのまま肯定するものだった。悲しみは消えなくても、ヘブンと過ごした時間のすべてを悪かったことにしなくていい。

 丈に何かを話すことで、トキの中で行き場を失っていた気持ちが少しでもほどけるかもしれない。司之介やフミに支えられながら、トキはゆっくりとヘブンとの暮らしを語り始める。もっとも、口をついて出るのはヘブンへの懺悔ばかりだ。楽しかったことを思い出しても、最後には「あの時、自分が」と責める言葉へ戻ってしまう。記憶を辿ることが、そのまま自分を裁くことにつながっているのが痛々しい。

 帝大へ向かう日の朝、かつての何気ない日常がトキの記憶の中によみがえるのも印象的だった。ありふれた会話、いつもの朝の支度、他愛のないやりとり。今となっては、その何でもない時間こそがいちばん懐かしい。けれどトキは、その思い出の中にある自分の接し方まで振り返り、あれがヘブンを縛っていたのではないかと考えてしまう。ここまで来ると、悲しみというより、自分の過去を全部ひっくり返して確かめ直しているような状態だ。

 誰かの言葉ひとつで前を向けるほど、喪失は簡単なものではない。それでも、言葉にし始めることはできる。丈に語ることは、回顧録のためだけではなく、止まってしまったトキ自身の時間を少しずつ動かしていくことにもつながっていくはずだ。ヘブンとの思い出をただ美しいものとして語るのでもなく、すべてを後悔で塗りつぶすのでもない。その両方を抱えたまま話し始めるところに、ようやくトキは立てたのだ。

■放送情報
2025年度後期 NHK連続テレビ小説『ばけばけ』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00~8:15放送/毎週月曜~金曜12:45~13:00再放送
BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜8:15~9:30再放送
BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:髙石あかり、トミー・バストウ、吉沢亮、岡部たかし、池脇千鶴、小日向文世、寛一郎、円井わん、さとうほなみ、佐野史郎、北川景子、シャーロット・ケイト・フォックス
作:ふじきみつ彦
音楽:牛尾憲輔
主題歌:ハンバート ハンバート「笑ったり転んだり」
制作統括:橋爪國臣
プロデューサー:田島彰洋、鈴木航、田中陽児、川野秀昭
演出:村橋直樹、泉並敬眞、松岡一史
写真提供=NHK

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