『ストレンジャー・シングス』の結末が示す“希望” ウィルの孤独とダスティンの言葉の意味

コロンバイン高校銃乱射事件を題材にした『ボウリング・フォー・コロンバイン』(2002年)では、自身もこの高校の卒業生である、人気アニメシリーズ『サウスパーク』のクリエイター、マット・ストーンが出演し、犯人について、このような見解を述べている。
「犯人の2人はいじめに遭っていた。たぶん、いまこういう状況なら、一生いじめられることになると思ったのさ。誰かが教えてやれば良かったんだよ。“高校が全てじゃない”って。あと2週間で卒業、自由の身なんだって」
「高校での日常と卒業後の現実は逆で、人気のなかった連中が逆転し、うまくやっていた連中が地元に舞い戻って面白くもない仕事をするはめになったりもするだろ。誰か2人にそのことを教えてやってればな」
こういった、まるで刑務所での刑期をも連想させる過酷な学校生活を思えば、本シリーズ『ストレンジャー・シングス 未知の世界』で描かれた孤独な異空間が、どこか現実の世界に似ていながら荒廃していて、そこからやって来る脅威が命を奪うほどに恐ろしいことの説明がつく。つまりアップサイドダウンとは、迫害される学生の“心象風景”であるということだ。同じ町、同じ教室にいながら、そういう生徒の見ている風景は、色褪せて寂しく、常に危険が付き纏っている。
あるマイノリティとしての性質を持っているウィルにしてみれば、その絶望や孤独の大きさは計り知れないものがある。だからこそウィルは、最もアップサイドダウンに囚われる存在となったのだと考えられる。ついに彼の真実が語られるファイナルシーズンは、それだけで真に意味深いものなのだといえる。そして、そんなウィルの悲しみを救い出し得たのは、家族や友人たちの承認と共感だった。
とはいえ、そんなウィルにも危険な瞬間があった。アップサイドダウンの邪悪な存在に身体が乗っ取られ、“向こう側”のスパイをさせられていたのである。これは、不当な抑圧による孤独のなかでネガティブな感情を植え付けられ、自分自身も他者を憎悪する存在になってしまうケースを表しているのではないか。現実の社会においても、迫害された者が自分の心を守るために、差別意識を内面化することで他の人々を攻撃することもある。
人種や民族を理由に不当な差別を受ける者が他の人種を攻撃したり、迫害を受けてきたと主張する男性が、女性全体に恨みを持って嫌がらせをしたり事件を起こすことが社会問題化しているのも、そういった構図の側面であるといえよう。コロンバイン高校の事件の犯人たちもまた心の闇に囚われ、受けた暴力や憎悪を内面化することによって凶行に及んでしまったのではないのか。学校生活を無事に終えるということは、自身の命を守るだけでなく、そうした考えに陥って“怪物化”しないようにすることでもある。
最終話のダスティンの感動的なスピーチは、さまざまなタイプの生徒たちが分断されず、互いの多様な性質を受け入れられれば、悲劇は起きないという、最終的な提案となっている。それは、大人の社会の秩序や、国際社会の平和に通用する考え方でもある。本来なら対立しかねないダスティンとスティーブが、ベストなコンビになれたことは、本シリーズの希望の象徴なのだ。
アップサイドダウンが現実の脅威であり、絶望の象徴だとするならば、そこに対してどんな対抗策があるのか。その一つとして本シリーズが表現するのは、“想像力”と“創造力”に他ならない。自分たちを殺そうとする怪物たちを、『D&D』のモンスターに例えて理解しようとする少年たちの試みは、厳しい現実を物語に転換する取り組みだといえる。現実の悲しみを、自分が受け入れられるものに変えること。そして、妄想のなかで自分を救い出すこと……。日常の場面で孤立し、助けも期待できない状況において自分の味方になってくれるのは、自分が作り出す世界なのだ。そういう現実への対処が、ギリギリのなかで自分の命を守る最後の防波堤になってくれることもある。
そんな“現実への対処法”が、ファイナルシーズンの最後の場面において、またしても発揮されることとなる。あまりにも大きな喪失のなか、少年から大人になっていくメンバーは、最後の『D&D』を楽しむ。前述したように『D&D』は、物語を生み出す創作の才能を必要とするゲームだ。語り部たるダンジョン・マスターを務めてきたマイクは、シーズン1と比較すると、体格だけではなく、語彙が増え表現力も多様になっている。まさに極上の物語を紡ぐことができるようになっている。
彼の語りによって、本シリーズに与えられる物語の美しい結末は、まさに想像と創造によって生み出される、現実への答えであるといえる。そして彼の物語は、過去やいまの危機や喪失に対抗するだけでなく、未来の才能と進路にも繋がってゆく。彼の生み出した物語は、彼自身や仲間たちの心を救っていくとともに、培われた才能が創り上げる作品というかたちで、将来見知らぬ人々の命をも救うことになるのかもしれない。
本シリーズ『ストレンジャー・シングス 未知の世界』が描いたのは、同じように“他と違う”ことによって迫害されながらも、厳しい学校生活を乗り越えてきた者たち、そして、いま困難に対峙している者たちへの共感とエールだといえる。そして、自分の体験や思考のなかから物を生み出すということが、どんなに崇高で、人を救う行為であるかという真実なのである。
■配信情報
Netflixシリーズ『ストレンジャー・シングス 未知の世界 5』
Netflixにて配信中
出演:ウィノナ・ライダー、デヴィッド・ハーバー、ミリー・ボビー・ブラウン、フィン・ヴォルフハルト、ゲイテン・マタラッツォ、ケイレブ・マクラフリン、ノア・シュナップ、セイディー・シンク、ナタリア・ダイアー、チャーリー・ヒートン、ジョー・キーリー、マヤ・ホーク、プリア・ファーガソン、ブレット・ゲルマン、ジェイミー・キャンベル・バウアー、カーラ・ブオノ、エイミーベス・マクナルティ、ネル・フィッシャー、ジェイク・コネリー、アレックス・ブロー、リンダ・ハミルトン
クリエイター:ザ・ダファー・ブラザーズ
製作総指揮:ロス・ダファー、マット・ダファー、ショーン・レヴィ、ダン・コーエン、イアイン・ペイターソン、カーティス・グウィン




























