成馬零一の「2025年 年間ベストドラマTOP10」 今の社会に必要な善意の在り方

成馬零一の2025年ベストドラマTOP10

 リアルサウンド映画部のレギュラー執筆陣が、年末まで日替わりで発表する2025年の年間ベスト企画。映画、国内ドラマ、海外ドラマ、アニメの4つのカテゴリーに分け、国内ドラマの場合は、放送・配信で発表された作品から、執筆者が独自の観点で10作品をセレクトする。第15回の選者は、ドラマ評論家の成馬零一。(編集部)

1.『ESCAPE それは誘拐のはずだった』(日本テレビ系)
2.『いつか、無重力の宙で』(NHK総合)
3.『じゃあ、あんたが作ってみろよ』(TBS系)
4.『波うららかに、めおと日和』(フジテレビ系)
5.『ひとりでしにたい』(NHK総合)
6.『地震のあとで』(NHK総合)
7.『ちょっとだけエスパー』(テレビ朝日系)
8.『魔法少女山田』(テレ東系)
9.『日本一の最低男 ※私の家族はニセモノだった』(フジテレビ系)
10.『おむすび』(NHK総合)

 2025年の国内ドラマは豊作だった。中でも新人脚本家の意欲作が多く、新時代の到来を感じた。そのため選考には迷ったが、最終的に自分が観て心地よかったものと、今の自分にとって必要だと感じた作品を選んだ。

桜田ひより×佐野勇斗『ESCAPE』は“青春ドラマ”として今期No.1 心地よい善意の描き方

水曜ドラマ(日本テレビ系水曜22時枠)で放送されている『ESCAPE それは誘拐のはずだった』(以下、『ESCAPE』)は、誘拐…

 1位の『ESCAPE それは誘拐のはずだった』は、誘拐された社長令嬢・ハチ(桜田ひより)と誘拐犯グループの青年・リンダ(佐野勇斗)が、ある理由で共闘して一緒に逃げることになるサスペンスドラマ。桜田ひよりと佐野勇斗の芝居が素晴らしく、二人のやりとりを見せるシーンがとても楽しかった。作品の根底にあるのは古いタイプの義侠心。ハチとリンダは困っている人がいれば助けるし、助けてもらった人たちは、追われている二人を庇おうとする。そんな善意の在り方に毎週感動し、今の社会に必要なのは、こういう気持ちだと思った。

『いつか、無重力の宙で』毎話15分とは思えない濃密さ “二つの物語”を成立させる秀逸な脚本

NHK夜ドラ『いつか、無重力の宙で』は、元天文部の女性4人が宇宙を目指す姿を描いた連続ドラマだ。  大阪の広告代理店で働く望月…

 2位の『いつか、無重力の宙で』は夜ドラという一話15分の月~木放送という帯ドラマ枠で放送された作品だが、15分と思えない物語の密度に毎話驚かされた。本作は高校時代に天文部だった4人の女性が30歳になって再会し、超小型人工衛星を作ることで宇宙を目指す物語。現在パートと学生時代を描いた過去パートが劇中では流れるのだが、過去パートだけ抜き出しても青春ドラマとして秀逸で二本のドラマを同時に観ているような贅沢な作りだった。脚本を担当した武田雄樹はオリジナルの連続ドラマを執筆するのは今作が初めてだが、完成度の高い隙のない作品で、新人脚本家の話題作が多かった2025年のテレビドラマの中でも頭一つ抜けていた。

 3位の『じゃあ、あんたが作ってみろよ』(TBS系)は、今年一番の話題作となったラブコメで亭主関白的な思考を内面化させた化石男・海老原勝男(竹内涼真)が、恋人の山岸鮎美(夏帆)にフラれたことをきっかけに、料理作りを通して変わっていく物語だ。

 ドラマのテンポが速く、勝男の成長スピードに圧倒されたが、本作を観ていると現代の成長とは古い価値観から脱却して現代的な価値観にアップデートしていくことなのかと感じる。

 4位の『波うららかに、めおと日和』(フジテレビ系)は、昭和初期にお見合い結婚した夫婦を主人公にした恋愛ドラマ。夫の留守を守る主婦の江端なつ美(芳根京子)と海軍将校の瀧昌(本田響矢)の夫婦は、今の時代では考えられないプラトニックな関係で二人のピュアすぎる姿が、視聴者から絶大な支持を受けた。戦時下の夫婦の姿は、同時期に放送された連続テレビ小説(以下、朝ドラ)『あんぱん』でも描かれていた定番のシチュエーションだが、朝ドラの戦前が戦後の復興に向かう前段階として描かれてきたのに対して『波うららかに、めおと日和』は、これから本格的な戦時下に突入する一歩手前で物語を終わらせた。その結果、2022年末にタモリが言った「新しい戦前」の空気を記述することに成功している。

 5位の『ひとりでしにたい』は終活を題材にしたコメディで、脚本を大森美香が担当した。同時期に大森は学園ドラマ『僕達はまだその星の校則を知らない』(カンテレ・フジテレビ系、以下『ぼくほし』)の脚本も執筆しており、放送当時は『ぼくほし』の方が面白かったのだが、最後に重たいものが残ったのは『ひとりでしにたい』の方だった。

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