2025.12.30 11:30

2025年オリジナルアニメは何を更新した？　『全修。』『ミルキーサブウェイ』などから考察

　もうひとつの傾向は、初速勝負の設計だ。配信の普及により、視聴者が作品を“試す”ためのハードルは年々下がっている。かつては「3話切り」と言われていたが、いまや1話、あるいはアバンの数分で判断されることも珍しくない。その結果、第2話まで辿り着いてもらうこと自体が、ひとつの壁になりつつある。

　原作もの作品であれば、既存ファンという土台があり、「ここから面白くなる」という地点まで時間をかけて物語を立ち上げる余地がある。一方、オリジナルアニメには、その猶予がほとんどない。2025年には、そうした状況を前提に、第1話の終盤で物語の向きをはっきりと変える構成を取る作品が目立った。

　転換点を序盤に置くこと自体は、三幕構成にもある通り、脚本術としては王道だ。ただ2025年のオリジナル作品では、それが脚本上の工夫にとどまらず、情報解禁のタイミングやSNSでの話題化まで含めた設計として、より意識的に組み込まれていたように見える。

『Turkey!』©BAKKEN RECORD・PONY CANYON INC. /「Turkey!」製作委員会

　例えば、夏クールの『Turkey!』は、「長野県千曲市を舞台に、ボウリング部に所属する女子高生を描くオリジナルアニメ」とだけ告知されていた。ところが第1話で物語は、予想を裏切るかたちで戦国時代へと踏み込む。聖地化を前提にした企画でありながら、その期待を自ら揺さぶる構成だった。

　冬クールのMAPPA制作『全修。』は、放送開始に至るまで、作品の全体像があえて見えにくいかたちで提示されていた。天才アニメ監督が、かつて夢中になった作品の世界に転生するという設定が共有されたことで、視聴者の受け取り方が一気に切り替わった点も含め、情報の出し方そのものが作品体験の一部になっていた。

　秋クールのP.A.WORKS『永久のユウグレ』は、「第0話」と銘打たれた第1話で、まず現代の恋愛を描く。その直後、物語は一気に200年後の世界へと飛躍する。主人公のアキラと同じように、視聴者もまた戸惑いを覚えながら、作品世界へ引き込まれていく構成だった。

　一方、春クールの『アポカリプスホテル』は、先に挙げた作品とは異なる歩み方を選んでいた。人類が消えた地球でホテルを守り続けるロボットたちの日常を、派手な仕掛けに頼らず、エピソードを丁寧に積み重ねながら描いていく本作には、序盤で世界観を一気に反転させるような大きな転換点は用意されていない。むしろ、日々の営みの積み重ねの中で、少しずつ世界の輪郭が解き明かされていく構成だ。それでも話数を重ねるごとに口コミで評価が広がり、アニメファンから高い支持を集めていった。その歩み方は、2025年のオリジナルアニメの中でも、いい意味で印象に残る存在だった。

　原作ものなら、再解釈の巧みさや演出に作家性が宿る。だがオリジナルは、物語だけでなく、作品をどう届けるかまで設計できる。尺、配信形態、情報の出し方、資本と制作体制の組み立て。2025年のオリジナルアニメは「物語の外側」からも勝負を仕掛ける作品が増えていたが、2026年、この流れはどこへ向かうのか。

参照
※ https://www.cinra.net/article/202509-kameyama-yohei_imgwyk

■公開情報
『銀河特急ミルキー☆サブウェイ』
公式YouTubeほかにて配信中
キャスト：寺澤百花、永瀬アンナ、小松未可子、金元寿子、小市眞琴、内山昂輝、山谷祥生、藤原由林
原作・監督・脚本・キャラクターデザイン・音響監督・制作：亀山陽平
音響会社：ビットグルーヴプロモーション
主題歌：キャンディーズ「銀河系まで飛んで行け！」
挿入歌：「ときめき★メテオストライク」水無瀬ミナミ（CV.田村ゆかり）
企画制作：シンエイ動画
製作：タイタン工業
©亀山陽平／タイタン工業
公式サイト：milkygalacticuniverse.com/
公式YouTubeチャンネル： @milkygalacticuniverse
公式X（旧Twitter）：@MGUJapan
公式Instagram：＠milkygalacticuniverse
公式TikTok：＠milkygalacticuniverse

『銀河特急ミルキー☆サブウェイ各駅停車劇場行き』
2026年2月6日（金）公開
キャスト：寺澤百花（チハル役）、永瀬アンナ（マキナ役）、小松未可子（リョーコ役）、金元寿子（アカネ役）、小市眞琴（カナタ役）、内山昂輝（カート役）、山谷祥生（マックス役）、藤原由林（O.T.A.M.役）、小野賢章（アサミ役）、ロバート・ウォーターマン（ハガ役）
原作・監督・脚本・キャラクターデザイン・音響監督・制作：亀山陽平
企画制作：シンエイ動画
製作：タイタン工業
主題歌：キャンディーズ「銀河系まで飛んで行け！」
挿入歌：水無瀬ミナミ（CV.田村ゆかり）「ときめき★メテオストライク」
プロモーション楽曲：MindaRyn「Altair and Vega」
配給：バンダイナムコフィルムワークス
©亀山陽平／タイタン工業
公式サイト：milkygalacticuniverse.com
公式X（旧Twitter）：@MGUJapan
公式Instagram：＠milkygalacticuniverse
公式TikTok：＠milkygalacticuniverse
公式YouTubeチャンネル： @milkygalacticuniverse