2025年秋アニメとは何だったのか 『ワンダンス』『矢野くん』など“ガチ勢”的5選を総括

『矢野くんの普通の日々』
『矢野くんの普通の日々』は、不運体質により怪我ばかりしている矢野くんと、そんな彼を放っておけない吉田さんを中心としたラブコメディだ。日常生活がままならず、また世間知らずな矢野くんに、いろいろな「普通の日々」を体験させるべく吉田さんやクラスメイトが和気藹々と一緒に過ごしていく。
見せ方次第ではドロドロとした関係性になりそうなところもあるが、全員が実直でどこかあっけらかんとしているために、常にお互いを気遣い合う仲のいい友達グループとして成立している点は本作の大きな魅力だ。例えば矢野くんと仲のいいクラスメイトの羽柴くんは、矢野くんと友達になったことで、好意を寄せていた吉田さんから矢野くんとの親密度でライバル視され嫉妬されることになる。しかし羽柴くんはそれでも根の優しさから矢野くんを思いやり続け、友達関係は揺るがない。矢野くんに対するケアから始まる物語であるため、全員が他者に対する思いやりが大きく、優しい世界が広がっているのである。
また、矢野くんや吉田さんの素朴さを表すような、線数が少なくシンプルながらも、的確に可愛さが伝わるキャラクターデザインも特徴的だ。影やハイライトも少なく、情報量は多くないが不思議と作品にマッチした絵柄で、見事に個々のキャラクターの魅力を引き出している。
『太陽よりも眩しい星』
今期のラブコメでは小ネタと多彩な演出が光る『太陽よりも眩しい星』も欠かせない。
身長が高く人より少し「頑丈」な女の子・岩田朔英と岩田の小学生時代からの初恋の相手・神城光輝のいじらしい恋模様を描く作品だ。
自分はずっと神城のことが好きだが、高校生になった神城は爽やかなイケメンに成長し人気者になっており、どうやら好きな人もいる様子。
そんな神城の一挙手一投足に反応してしまう、初々しいピュアな岩田の恋愛を、アニメでは凝ったトランジションや少女漫画のトーンのようなきらびやかな撮影処理を駆使した映像で演出し視聴者を全く飽きさせない。
また豊富な小ネタも特徴的だ。イラストレーターのどろみず氏による毎週のアイキャッチは遊び心にあふれ、本編中の随所に現れる書き文字は大きく本筋には絡まないもののキャラクターの細かいやりとりが現れる。細部にまで詰め込まれた小ネタは、話数が進みサブキャラクター含め全員に愛着を持つにつれて、ファンサービスとしてより魅力的に感じられる。
つい応援したくなってしまうような岩田の恋愛をぜひ見届けてほしい。
『転生悪女の黒歴史』
飽和が進みタイトルからは内容の質が判別不能になりつつある転生/悪女モノの中で、そのユニークなギミックから唯一の魅力を発揮していた『転生悪女の黒歴史』。『乙女ゲームの破滅フラグしかない悪役令嬢に転生してしまった…』などに代表される、死亡フラグの立っている悪女に転生するといったよくあるテンプレ設定を、学生時代の黒歴史小説への転生へと一捻りを加えることでメタ的なコメディに昇華することに成功していた。
理不尽なイベントもすべて自分の書いた小説に由来するため、すべて身から出た錆となり自己責任となる。いびつな人間関係に困らされることもあっても、自らの趣味で描いたものだから仕方がない。物語の起伏を作るさまざまな要素が作劇上の都合としてではなくて、主人公が自ら招いたものというふうに解釈される。
さらに過去に書いた小説の実現は、登場人物としての自分を苦しめると同時に、小説を書いた過去の恥ずかしい思い出を蘇らせるという点で、二重の苦しみを発生させる。
理不尽なイベントに納得と整合性を与えるだけにとどまらず、それらをオタクのあるあるを交えたコメディに昇華させる見事なフォーマットで、いつまでも観ていたいと感じさせる作品だ。
今回取り上げられた作品は秋アニメのほんの一部ではあるが、もし気になった作品があれば観ていただけると幸いだ。























