『チラムネ』OPの映像美が高評価 『アオのハコ』などたなかまさあき作品の魅力を分析

『チラムネ』高評価のOP映像の美しさを分析

 2025年秋アニメの話題作、『千歳くんはラムネ瓶のなか』(以下、『チラムネ』)が3週間の延期を経て、12月2日から放送を再開した。

 放送のたびにその内容から大きな賛否を呼んでいる本作ではあるが、たなかまさあきの手がけるオープニングは本編の内容を反映しつつ映像美を実現した紛れもない傑作である。

 たなかまさあきは今期は他にP.A.WORKSのオリジナルアニメ『永久のユウグレ』のエンディング映像も手がけており、過去にはdアニメストアのCMや『アオのハコ』第2クールのEDなどハイクオリティな短編アニメーションを手がけている。

 今回はそんな注目すべき映像作家たなかまさあきの作品について語っていきたいと思う。

『千歳くんはラムネ瓶のなか』

 たなかまさあきが手がけた今期の『チラムネ』OPは秀逸だ。

 第1話の冒頭で青春の青について語ったモノローグも印象的な『チラムネ』に、これまで様々な青春を描いてきたたなかまさあきは適任だと言えるだろう。

 そんなハマり役とも言えるたなかまさあきの演出は、作品の主題を取り入れるために少しテクニカルなものになっている。

0:57~あたり、アスペクト比を変更したカメラロールのようなカット

 例えばサビに入る直前、アスペクト比を変更したカメラロールのようなカットでは、本来の画面より小さくなる点を活かし、キャラクターが画面の中で暗闇に圧迫され小さく閉じ込められているように配置される。これに「檻のなか」という歌詞を合わせ、フルスクリーンに広げるのと同時に「打ち破れ」という歌詞を重ねて一気に解放する。主人公の千歳くんが登場人物たちの窮地を救う様子を、主題歌と映像の両面で描く技巧的なOPとなっている。

 また、このOP映像で印象的なのは、線画をベタ塗りしたような階調分割的なイラスト風の背景であろう。冒頭の海も空も福井の街並みも少ない色数で描かれ、大きく情報量を落としている。

1:17~など、グラデーションを廃したイラスト風の背景

 本作以前のたなかまさあきの映像では、基本的に撮影処理を強く施した写実的で美しい青空や海が登場していたので、やはりこれは印象的だ。

 今までのたなかまさあきに多かった新海誠的な映像処理から離れ、若干リアリティに欠けるようなこの映像のスタイルだが、唯一線画の塗りつぶしではなく、複雑な光を放つように設計されたものが存在する。

 それはタイトルロゴの表示で大きく映り、サビで千歳くんが見つめ、曲の最後に机の上で輝く、ビー玉である。

0:25~などに映る「写実的」なビー玉

 その他の要素が戯画化される中で、ビー玉だけは複雑な色合いを持ち、写実的な光と撮影処理がなされることにより、ビー玉の持つある種の特権性が強調される。

 作品を通して手の届かない理想の象徴として描写されるビー玉と、それ以外の空や海など従来青春が仮託されていたものと、色彩の面において差をつけることに成功しているのである。

 空や雲の美しさという視聴者の感情に訴えかけるような部分をある意味で手放し、作品の重要なモチーフであるビー玉に注力する演出はOP映像として非常に真摯で誠実であると言える。

dアニメストアCM

 たなかまさあきを語る上で避けては通れないのが、dアニメストアCM「アニメとススメ!」である。

dアニメストアCM「アニメとススメ!」篇フルver.

 たなかまさあきの作品の中で、もしかすると最も知名度が高いかもしれない本作は、アニメ好きの女子高生3人がそれぞれアニメに対する情熱を糧に「アニメみたいな」青春を送る姿を描く。

 映像もそれにあわせてアニメあるある的な演出も多く盛り込まれている。青い空に浮かぶ大きな入道雲を見上げる姿や華麗にシュートを決める姿はどこかで見たアニメのようだ。

 一方で彼女たちは推し活を楽しむ女子高生でもあり、ダンス動画を撮影したりコスプレでキャラクターを再現したりアニメファンとしての活動を行う。その際にスマホでの撮影を表現するために左右を黒く潰した縦画面風のレイアウトを用いることも特徴的だ。

 また、本作は現在2シーズン制作されており、シーズン2はキャラクターは共通するものの若干空気感は異なる。

dアニメストアCM「アニメとススメ。」シーズン2 フルver.

 シーズン1では、「アニメみたいな」青春を全面に押し出し、アニメイベントやコスプレ、推し活と学校生活を両立させる女子高生の輝かしく活力に溢れる姿を描く。一方でシーズン2では、夜中まで絵の練習に励んでから黒板アートに挑んだり、指が痛くなるまでベースの練習をしたりと、よりキャラクターの内面的な部分に焦点を当てる。

 シーズン1では「アニメみたい」を志向し記号の追従であった彼女たちの青春が、シーズン2においては、アニメが好きで始めた趣味を続けていくうちに、壁にぶつかり、自分と向き合うことで前に進んでいくような、現実的な問題と成長を描く。それにあわせて、シーズン1では16:9か縦画面風の9:16であった画面比はシーズン2ではシネスコが用いられておりどこか緊張感が漂う。

 シーズン1は「アニメみたいな」青春と女子高生としての活動であり、テレビアニメとスマートフォンを表す画面比を採用し、シーズン2では単にアニメを真似するのではなく切実に努力する姿を描くために映画的な画面比を採用する、内容を反映した演出となっている。

 「アニメとススメ」は各1分程度だが非常に充実した内容が詰まっている。日頃dアニメストアにお世話になっているアニメファンとしては押さえておきたい作品だ

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