少女は死と対話する 感覚的な鋭さが光る『白の花実』の不思議で幽玄な趣に取り憑かれる

『白の花実』の不思議で幽玄な趣

 また、杏菜が自分の体に莉花の魂を受け入れ、時々彼女に身体や心が引っ張られる様子も見応えがある。突然、莉花のダンスパートを踊り出すシーンは、少女たちが共に暮らす学園ものという文脈も含め、ルカ・グァダニーノ監督版の『サスペリア』を思わせる緊迫感さえある。ただ、先述の通り本作の怪奇描写の塩梅が素晴らしく、あくまで少女と少女の対話を見つめるテーマ性を阻害しないのが美しい。

 なぜ、教師からも生徒からも好かれた莉花は身を投げて死んだのか。本作がその問いを、残された者が勝手に言葉を加えながら謎を解くような作品ではなく、本人(の魂)の導きによって、彼女自身の言葉(日記)を用いて説かれていくところに、本作ならではの誠実さと魅力を感じる。言葉を大切にしながら、10代の多感な少女と少女の絆、メランコリー、秘密を描く点においてはサリー・ポッター監督作『ジンジャーの朝 〜さよなら、わたしが愛した世界』にも雰囲気が近しいかもしれない。このように、本作『白の花実』もまた、インディペンデントなテーマと撮影・演出に宿る感覚的な鋭さが光る。その物語表現や没入感が作品の最大の魅力と言えるだろう。

瑞々しいキャストたちによって立ち上がった作品の世界観と空気

 しかし、本作の世界観を完成させたのは他でもない、物語の核となる少女たちだ。主人公・杏菜を演じるのは、サントリー天然水「スパークリングレモン」のCMや雑誌モデルとして活躍する美絽。彼女の物憂げでミステリアスな存在感がとにかく素晴らしく、その視線の先が常に気になってしまうような惹きつけ方をする女優だ。莉花の幼なじみであり、杏菜と共に死の真相に迫る栞役には「ゼクシィ」15代目CMガールとして注目を集め、映像作品への進出も著しい池端杏慈。莉花役には、ドラマ『DOPE 麻薬取締部特捜課』(TBS系)で鮮烈な印象を残した蒼戸虹子が名を連ねる。

 彼女たちが持つ、まだ何色にも染まっていない俳優としての余白は、坂本監督が描く繊細な揺らぎと共鳴しながら、生々しい呼吸を作品に吹き込む。一方で、彼女たちを取り巻く大人たちには、門脇麦、河井青葉、伊藤歩、吉原光夫といった実力派俳優が起用され、彼らの地に足のついた演技が、少女たちの危うい浮遊感を体現する若手キャストの存在をより一層前に出し、輝かせている。特に門脇は、もちろん演技が素晴らしいだなんてわかりきったことを今さらあえて言及するつもりもないが、彼女自身アンニュイな役柄が似合う中、あえて自由に物憂げていたい少女たちを律する立場に転じている点が面白く、見どころの多いパフォーマンスを見せた。

 個々のキャストが持つ雰囲気と、寮の部屋や図書館、湖の砂場などの自然や場所の空気感を耽美な映像で表現する『白の花実』。物語と映像、それぞれの魅力が溢れた世界観にぜひ浸ってほしい。

■公開情報
『白の花実』
12月26日(金)より、新宿武蔵野館ほか全国順次公開
出演:美絽、池端杏慈、蒼戸虹子、河井青葉、岩瀬亮、山村崇子、永野宗典、田中佐季、伊藤歩、吉原光夫 、門脇麦
監督・脚本・編集:坂本悠花里
プロデューサー:山本晃久
製作・配給:ビターズ・エンド
制作プロダクション:キアロスクロ
英題: White Flowers and Fruits
2025年/日本/カラー/DCP/5.1ch/ビスタ/110分
©2025 BITTERS END/CHIAROSCURO
公式サイト:https://www.bitters.co.jp/kajitsu/
公式X(旧Twitter):https://x.com/shirono_kajitsu

関連記事

リアルサウンド厳選記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「作品評」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる