『もしがく』はシェイクスピアらしい幕切れに “久部”菅田将暉に重なる『マクベス』的運命

「一国一城の主になる」というおばば(菊地凛子)の予言通り、WS劇場の支配人となった久部(菅田将暉)。しかし前回、おばばはもうひとつ新たな予言を告げていた。「男から生まれた男に気を付けろ。お前の足を引っ張るのは、男から生まれた男」。その直後、蓬莱(神木隆之介)は樹里(浜辺美波)に自身の生い立ちと共に、母親の名前が“乙子(おとこ)”であり、自分は「“おとこ”から生まれてきた」と話すのである。
『もしがく』こと『もしもこの世が舞台なら、楽屋はどこにあるのだろう』(フジテレビ系)は12月17日に最終話を迎えた。そんなクライマックス直前で突発的に意味深なフラグが立てられた点はどうにも付け焼き刃のような印象を受けなくもないが、それでも久部が必ずしも理想通りの道をたどる結末にならないのは誰もが想定できることといえよう。はたして蓬莱――すなわち三谷幸喜の若き日が投影されたキャラクターが、この物語を最後の最後にかき乱す存在となりうるのか。

その答えは、まさかの「NO」である。久部は蓬莱に足を引っ張られるまでもなく、勝手に自滅の道を歩むのだから。対抗意識から『ハムレット』の上演に乗り出すものの、肝心のオフィーリア役のリカ(二階堂ふみ)はまったく芝居に身が入っていない。そんななか、朝雄(佐藤大空)の描いた絵を台無しにしてしまった久部は、すっかり人気者となっていた大瀬(戸塚純貴)に罪をなすりつける。さらに酒に溺れた是尾(浅野和之)に降板を言い渡し、彼がテンペストで飲んだ酒の支払いを勝手に売上金から肩代わりする。

野心的な青年がいざ権力を手にし、それでもなお思い通りにいかないことが続き、些細な悪事を重ね、追及されても開き直り、そもそも薄かった人望を完全に失くし孤立無縁となる。この見事なまでの悪循環、先述のおばばの予言も然り、やはり久部に待ち受けている運命は、その役名の由来であろう『マクベス』と重なるものがある。そして劇団を辞め、八分坂を後にすることを決めた久部におばばが最後に言う「運命は星が決めるものじゃない」という言葉は、そのまま『ジュリアス・シーザー』からの引用というわけだ。

シェイクスピア演劇に打ち込む人々の群像を描き、役名や登場する店名などところどころにシェイクスピアの要素を盛り込んできたこのドラマだが、最終話にして本格的に“シェイクスピアらしい”落としどころが選ばれる。第1話で久部が最初に八分坂を訪れた時とは逆の方向で、奥から順に街のネオンが消えていくクライマックス。それはすなわち“この世”――八分坂はひとつの“舞台”に過ぎず、そこに立つ演者のひとりである久部が“楽屋”という安息の地を模索するのならば、当然それは舞台の上には存在しない。ビターではあるが、正しい幕切れだ。

エピローグで描かれる2年後のシーン。テレビ局で働くようになった蓬莱が久々に八分坂を訪れると、かつての夜の街の空気は消え去り、艶やかなネオンはすっかりカラフルな、若者の街へと変貌を遂げている。これまで「劇場がなくなる」「神社がなくなる」など、現実の渋谷の街さながらに街全体が取り壊されて新しいものへと移り変わる気配が漂いつづけていたが、そうはならずに、この街を出入りする人々が変化することで街が自ずと変わっていく。そうした前向きなかたちで人と街を連動させる点に、「渋谷」という地への愛情を感じずにはいられない。

それにしてもジェシー(シルビア・グラブ)が始めた弁当屋で配達の仕事をするようになった久部が自転車を走らせ、1980年代半ばの渋谷の街の映像と重ねられる光景は、このドラマで最も観たかったものである。久部が訪れるこざっぱりとした公民館の一室では、かつてのWS劇場の面々が誰に見せるわけでもなく、シェイクスピア演劇の稽古を楽しんでいる。“舞台”から降りた彼らが見つけ出した“楽屋”に、久部は上がり込もうとはせず、ふたたび「シェイクスピア全集」を手に新たな“舞台”を探しにいく。まさしく、“終わりよければ全てよし”。これもまた、シェイクスピアの戯曲から生まれた言葉である。
1984年の渋谷を舞台に、脚本家・三谷幸喜の半自伝的要素を含んだ完全オリジナル青春群像劇。「1984年」という時代を、笑いと涙いっぱいに描いていく。
■配信情報
『もしもこの世が舞台なら、楽屋はどこにあるのだろう』
TVer、FODにて配信中
出演:菅田将暉、二階堂ふみ、神木隆之介、浜辺美波、戸塚純貴、アンミカ、秋元才加、野添義弘、長野里美、富田望生、西村瑞樹(バイきんぐ)、大水洋介(ラバーガール)、小澤雄太、福井夏、ひょうろく、松井慎也、佳久創、佐藤大空、野間口徹、シルビア・グラブ、菊地凛子、小池栄子、市原隼人、井上順、坂東彌十郎、小林薫ほか
脚本:三谷幸喜
主題歌:YOASOBI「劇上」(Echoes / Sony Music Entertainment (Japan) Inc.)
音楽:得田真裕
プロデュース:金城綾香、野田悠介
制作プロデュース:古郡真也
演出:西浦正記
制作著作:フジテレビ
©︎フジテレビ
公式サイト:https://www.fujitv.co.jp/moshi_gaku/
公式X(旧Twitter):@moshi_gaku
公式Instagram:@moshi_gaku
公式TikTok:@moshi_gaku
























