『べらぼう』横浜流星の“凄み”と演出の裏側 「登場人物全員がいい人である必要はない」

水断ちまでした横浜流星の“凄み”

――そして、主演の横浜流星さんです。1年を通して蔦重を演じきった彼に対し、演出家としてどのような魅力を感じましたか?
大原:ベースとして、とにかくストイックであることは変わりません。ただ、一人の人物の生涯を長く演じる中で、責任感や表現の深みがどんどん変わっていきました。前半は勢いでぶつかっていく芝居でしたが、後半はそれを受け止めていく芝居へと変化していきました。成功者ゆえの傲慢さや老害感も含め、どう表現するか苦労されていましたが、見事に咀嚼して最終回へと持っていってくれたと思います。
――特に最終回に向けた役作りは凄まじかったと伺いました。
大原:蔦重は脚気を患って亡くなるのですが、横浜さんは実際に食事制限だけでなく水断ちまでして、ボクサーのように体を絞って撮影に臨んでいました。元気な頃は役作りで少し体を大きくしていたので、そこからの落差も含めて、胸元のラインや顎のラインが全然違うんです。実は病床のシーンで、座って脇息に寄りかかっているんですが、「脚気で足に力が入らない」という裏設定で演じてもらっているんです。踏ん張りがきかない状態で体を支えるのは、実は腰にものすごい負担がかかる。そんな身体的な辛さも、あのお芝居の気迫に繋がっていたのだと思います。

――最終回では、盟友・歌麿(染谷将太)とのシーンも涙を誘います。
大原:個人的に、最終回で一番グッときたのは歌麿とのシーンですね。死を間近にした蔦重に、歌麿が「死ぬな」と言う。でも、決して悲壮感たっぷりに言うのではなく、彼らしい優しさで表現してほしいと伝えました。染谷さんは絶対的な信頼がおける役者さんなので、一言伝えれば瞬時に理解してくれて、横浜さんもそれを受け止めて。二人の積み重ねてきた時間が凝縮された、素晴らしいシーンになったと思います。
――また、語りを担当された綾瀬はるかさんの登場も話題です。
大原:綾瀬さんには「神の使いなので、あんまり優しくなりすぎず、淡々としていていいです」とお伝えしました(笑)。あのシチュエーションで巫女の格好をして現れるのが面白いですよね。横浜さんとしっかりお芝居で絡むのは初めてだったので、現場も楽しんで撮影できました。
涙を誘う「へおどり」の裏側

――最後に蔦重の最期を仲間たちが「へおどり(屁踊り)」の裏側についても教えてください。
大原:あそこは「楽しんで踊らないでくれ」と伝えました。「へおどり」自体は本来楽しむものですが、あの場においては、蔦重をこの世に引き戻そうとする「一生懸命な構造」なんです。みんなが蔦重を見て、必死に踊る。それが結果として、蔦重らしい賑やかな見送りになったのだと思います。
――最後に、この作品を通して感じた「エンターテインメントの意義」について教えてください。
大原:エンタメというのは、こちらが「面白いですよ」と提供しても、受け取るお客さんが喜んでくれなければエンタメにはなりません。お客さんがいて初めて成立するものです。 それでも、物語やエンタメが人々の心の拠り所になれるなら、そういう存在になれるものを作り続けたい。かつて「不要不急」と言われた時期もありましたが、やっぱりこういうものは歴史の中で存続していくべきだし、作り手としては常にお客さんの声を励みに、求められるものを提供していけたらと思っています。
■配信情報
大河ドラマ『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』
NHKオンデマンド、NHK ONEにて配信中
出演:横浜流星、小芝風花、渡辺謙、染谷将太、宮沢氷魚、片岡愛之助
語り:綾瀬はるか
脚本:森下佳子
音楽:ジョン・グラム
制作統括:藤並英樹
プロデューサー:石村将太、松田恭典
演出:大原拓、深川貴志
写真提供=NHK





















