妻夫木聡の涙になぜ胸を打たれるのか 『ザ・ロイヤルファミリー』で貫いたありのままの“生”

TBS日曜劇場『ザ・ロイヤルファミリー』が最終回を迎える。妻夫木聡演じる栗須栄治が顔をぐしゃぐしゃにしながら涙を流した初回から、競馬界のさまざまな人間模様を描きながら、物語はとうとう最後のクライマックスへと向かう。
思えば、2025年は“ブッキー”祭だった。それほどに、妻夫木の出演作が続いている。前期にはNHK連続テレビ小説『あんぱん』(2025年度前期)に出演し、八木信之介という重要な役を担った。漫画家・やなせたかしをモデルにした柳井嵩(北村匠海)と生涯にわたって交流のあった先輩という役どころで、戦争によって家族を失った八木が、戦後子どもたちのための会社を立ち上げ、子どもたちのために生きる姿は、抑えた演技の中に悲しみと情熱を感じさせるものだった。ヒロインの妹・蘭子(河合優実)とのロマンスが視聴者の話題をさらったのも記憶に新しい。
『あんぱん』MVPは間違いなく八木信之介=妻夫木聡 物語を動かす“要”としての重み
半年にわたって放送されてきた朝ドラ『あんぱん』(NHK総合)が、ついに終わってしまった。まさに“ロス状態”に陥っている視聴者は少…衝撃的ともいえたのが、『あんぱん』放送時に出演した情報番組『あさイチ』(NHK総合)で見せた涙だ。映画『宝島』(2025年)への出演のため、沖縄の美術館で戦争を描いた絵を観たという妻夫木は、スタジオで大粒の涙を流し、言葉に詰まってしまうほど嗚咽(おえつ)をもらして泣いたのだ。その様子は、見ているこちらまで息が詰まりそうなほど真に迫っており、SNSには「胸を打たれた」「平和を訴えている姿に感動しました」といった声があがった。改めて、妻夫木聡という俳優の凄みと魅力を感じる放送だった。
妻夫木といえば、爽やかな見た目と感じの良い笑顔で、かつては「好青年」の代名詞のような俳優だった。初めて日曜劇場の主演を務めた『オレンジデイズ』(2004年/TBS系)では、聴力を失ったバイオリニスト萩尾沙絵(柴咲コウ)に恋をして、ぶつかりながらもお互いに支え合おうとする結城櫂という大学生を演じた。誠実で実直で優しさに満ちた青年役は、20代の妻夫木のイメージを決定づけたといえるだろう。
そんな「好青年」イメージが定着した妻夫木の転機となったのは、映画『悪人』(2010年)だ。妻夫木は、殺人事件を起こしてしまう土木作業員・清水祐一を演じた。表向きは地味で平凡そうな男なのだが、内には深い闇と衝動を抱えているという複雑な人物だ。李相日監督との対談でも、「『悪人』が終わって以来、僕は役への取り組み方が本当に変わってしまった」と語っているように、それまでの殻を破る作品となった。
妻夫木はこの後、爽やかな好青年から役の幅を広げていく。同監督の『怒り』(2016年)では、同性愛者を演じるが、二丁目のゲイカルチャーを実際に体験するなど、深い役作りをして臨んだという。
「李さんは俳優がその人物になっていないとダメなんですよ。その人がどういう生き方をしてどういう表情をしてどういう風に感じたか。その『生』を撮りたい。僕たち俳優は芝居といううそをついていますが、演じているその瞬間は生でなくてはいけないんです。だから、日頃からその人物になるべく近づいていって、うそを真実に変える作業を常にしていかないといけない」(※1)






















