『ザ・ロイヤルファミリー』が継承する日曜劇場のレガシー　“耕一”目黒蓮が見つめる次の夢

　現役最強騎手のクリストフ・ルメールが本人役で出演した『ザ・ロイヤルファミリー』（TBS系）第9話では、暗闇に一条の光が差した。

　順風満帆のときに逆境は訪れる。快走を続けるロイヤルファミリー（以下、「ファミリー」）は、2024年天皇賞（秋）に出走するが、予想外の事態に見舞われた。レース終盤で騎手の翔平（市原匠悟）が落馬。翔平はくるぶしを骨折し、ファミリーも負傷した。

　「傷ついた馬と倒れたジョッキーがふたたび戻ってこられるか」。私たちが想像する以上に、競走馬とそれを操るジョッキーは繊細である。一度歯車が狂えば、トップフォームを取り戻すのは容易ではない。体の傷が治っても、以前のような走りができるとは限らない。

　ファミリーの右目は角膜実質膿瘍で失明のリスクがあったが、角膜移植のできる獣医は国内にいなかった。片目で走ることは、右回りのコースでは絶対的に不利になる。有馬記念が開催される中山競馬場のコースは右回りで、優勝という目標の達成は限りなく悲観的な見通しとなった。

　何のために走るのか？　耕一（目黒蓮）の葛藤は、馬のことを最優先に考える彼らしいものだった。栗須（妻夫木聡）に問う「馬の幸せ」は、ただ勝つのではなく、引退後も穏やかな余生を送れるようにという配慮が込められていた。しかし、一生暮らせるだけの飼葉代を稼ぐにはレースで勝たなければならない。走ることを宿命づけられた競走馬の矛盾に、耕一は直面していた。

　耕造（佐藤浩市）の言葉は一つの考え方を示すものだ。先頭を駆ける馬は「ゴールを真っ先に走り抜ける」爽快さを感じている。それが勝利への渇望であるかはともかく、頂点を目指して挑んだ先に答えがあり、諦めずにもがき続けることで初めてつかめるものがあることは、経験則に裏づけられた真理だ。

　ある意味で、それはエゴなのかもしれない。「勝つために治してほしい」と耕一は獣医師の沢渡（市川実日子）を説得する。耕一の執念は自己中心的に見えなくもない。けれども、そうやって自分を信じて進んでいくことでしか道が開けないことも確かだ。「生きてさえいれば、次の夢を見つけることもできる」という耕一の言葉は、寺山修司の「振り向くな、後ろには夢がない」にも通じる。

　耕一と同じことが翔平にも言える。翔平はファミリーに乗ることの重みを知っており、「ただ乗ればいいだけじゃない」と自分を追い詰める。ファームの現状を知る翔平には悲壮感すら漂っており、期待と責任を一身に担う姿は“継承”の別の側面である。栗須は客観的な目線で「誰かのためにジョッキーになったのか」と問いかけるが、翔平が反発するのはある意味当然だった。

　同じ目標に向かって歩む人々が、徐々に本当のファミリーになっていく過程は、今作の感動ポイントである。翔平に対する栗須の接し方は、責任ある大人のそれだが、第9話では、一歩進んで、苦楽を分かち合う親子のスタンスに発展した。のちに親子になる二人の絆は、翔平が新しい自分を見つけるきっかけになった。ようやく結ばれた加奈子（松本若菜）と栗須は、時間をかけて本物の家族になるタイミングを待ち続けたように映る。

　翔平役の市原匠悟は現在17歳。子役として『天皇の料理番』（TBS系）や『下町ロケット』（TBS系）に出演してきた。今作では、ドラマの重要なピースである騎手を演じており、日曜劇場の世代交代を象徴するキャスティングだ。競馬記者の平良（津田健次郎）の連載ではないが、親子の継承という普遍的なテーマを力強く描くのは伝統枠ならでは。そこに生まれる重厚なナラティブといくつもの文脈がゴールに向かってなだれ込む。2025年の有馬記念まで残すところあと1話だ。

■放送情報
日曜劇場『ザ・ロイヤルファミリー』
TBS系にて、毎週日曜21:00～21:54放送
出演：妻夫木聡、目黒蓮、松本若菜、安藤政信、高杉真宙、津田健次郎、吉沢悠、木場勝己、尾美としのり、関水渚、長内映里香、秋山寛貴（ハナコ）、三浦綺羅、小泉孝太郎、黒木瞳、沢村一樹、佐藤浩市
原作：早見和真『ザ・ロイヤルファミリー』（新潮文庫刊）
脚本：喜安浩平
演出：塚原あゆ子、松田礼人、府川亮介
主題歌：玉置浩二「ファンファーレ」
プロデュース：加藤章一
協力プロデュース：大河原美奈、小髙夏実
編成：佐藤礼子、中野翔貴
製作：TBSスパークル／TBS
©TBSスパークル／TBS
公式サイト：https://www.tbs.co.jp/RoyalFamily_tbs/
公式X（旧Twitter）：@royalfamily_tbs
公式Instagram：royalfamily_tbs
公式TikTok：@royalfamily_tbs