横浜流星×森下佳子が導いてくれた“夢の中”の1年間 『べらぼう』が信じたエンタメの底力

『べらぼう』が信じたエンタメの底力を総括

 蔦重も同様に、終盤生まれるはずだった子どもを失う。しかしこの場合、話の中心にいるのは、蔦重その人ではなく、彼を愛した2人の人物、蔦重の妻・てい(橋本愛)と歌麿(染谷将太)である。第43回で「この子を旦那様に差し上げたいのです。子を育てる喜びを旦那様に」と泣きながら言うていだったが、その願いも虚しく、早産となった。一方、同じく第43回において、歌麿は、蔦重への届かぬ想いにいよいよ耐え兼ねて蔦重と距離を置く。別れ際に渡した「恋文」のような数枚の下絵は、恋する女性たちの表情を捉えつつ、そこに自身の蔦重への恋心を込めた渾身のものだったが、鈍感な蔦重は気づかない。

 だが、第45回においてその下絵は、ていの計らいにより、蔦重が練りに練って完璧に摺り上げた「歌撰恋之部」となり、「蔦重からの恋文」として歌麿の元に届けられた。その時ていは言うのである。「2人の男の業と情、因果の果てに生み出される絵というものを、見てみたいと存じます。私も本屋の端くれ、性というものでございましょうか」と。ていの思いを汲んで、蔦重と再び仕事をするべく彼の元に訪れた第46回冒頭の歌麿が、ていの再びの出家宣言を蔦重に明かすとともに「世の中、好かれたくて、役立ちたくててめえを投げ出すやつがいんだよ。そういう尽くし方をしちまうやつがいんだよ。いい加減分かれや、このべらぼうが」と蔦重にぶつける。それは、ていの思いの代弁であるとともに、彼自身の蔦重に対する長年の思いでもあった。いわばこれは、蔦重を愛する2人の人物による、血脈を繋ぐという形でなく、どうやったら愛する人と「共に生きていく」ことができるかという模索の末の共闘を描いていたのではないか。そして2人は、蔦重と共に、傑作を生みだすという形で、失いようのない「永久の命」を生みだす道を選ぶ。

 第16回の源内の死の際における「本を出し続けることで、源内さんの心を生かし続けることができるだろ」という書物問屋の店主・須原屋市兵衛(里見浩太朗)の言葉を形にするかのように、蔦重と仲間たちが「写楽」を通して平賀源内を蘇らせたのもそうだ。そして源内が言った言葉の通り「我が心のままに生き」た人々の物語はもうすぐ終わる。だが、たとえ身体がなくなったとしても、彼らの志は生き続ける。作品の中で彼らの祭りは永遠に続く。果たしてどんな大団円を迎えるのか。

■放送情報
大河ドラマ『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』
NHK総合にて、毎週日曜20:00〜放送/翌週土曜13:05〜再放送
NHK BSにて、毎週日曜18:00〜放送
NHK BSP4Kにて、毎週日曜12:15〜放送/毎週日曜18:00〜再放送
出演:横浜流星、小芝風花、渡辺謙、染谷将太、宮沢氷魚、片岡愛之助
語り:綾瀬はるか
脚本:森下佳子
音楽:ジョン・グラム
制作統括:藤並英樹
プロデューサー:石村将太、松田恭典
演出:大原拓、深川貴志
写真提供=NHK

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