TVerが成長を続ける秘訣は? プロダクト責任者が語る“新しいものに出会う”体験

サービス開始10周年を迎えた民放公式テレビ配信サービス「TVer」(ティーバー)。年々右肩上がりの成長を続けるなか、2025年10月には月間動画再生数が過去最高の5.4億再生を記録した。
今回は、同サービスの開発を担当している株式会社TVer取締役の宮島大輔にインタビュー。開発の舞台裏からプラットフォームとしての方向性、今後の展望までを語ってもらった。
「TVer」の開発に携わるまでの経歴

ーーまずは宮島さんの経歴をお聞かせください。
宮島大輔(以下、宮島):私は学生の頃から、いわゆる学生ベンチャーで働いていました。ちょうどスマートフォンが出るかどうかくらいのタイミングで、請負開発の仕事でWebサイトやスマートフォンアプリの開発を始めたのが、エンジニアとしての最初です。実はその前は、塾の運営もしていました。立ち上げ期だったこともあり、すべて自分たちでやる体制で見よう見まねで新聞の折り込みチラシを作ったりもしました。どのようなクリエイティブが目を引くか、どこのエリアのどの新聞社の何曜日に入れると反応が良いか、など地道にトライしていました。今思えば超アナログのABテストでしたね(笑)。
ーーたしかにABテストですね(笑)。
宮島:そうした開発だけに閉じない経験の積み重ねが今につながっています。その後、2012年ごろから動画配信に携わることになります。AWSなどのパブリッククラウドがまだ十分に広がる前にスマートフォンでスポーツのライブを見ることができる環境づくりに取り組みました。当時は数千人見たらサーバーが落ちることもあるような黎明期。その頃から現在まで、15年近くの間配信技術に携わってきました。放送局がコンテンツを持っていることが多かったので、放送局との付き合いもほぼイコールの年数です。当初は今のTVerのような広告市場は立ち上がっていなかったこともあり、有料配信から始めて、業界の発展とともにいろいろな経験をしてきました。今はその経験をTVerに還元できればいいなと思っています。
“出会い”のあるプラットフォームへ
ーーTVerではユーザー体験に関して、どんなことを意識されていますか?
宮島:一番は“セレンディピティ”です。新しいものに出会うこと。TVerはキャッチアップ配信なので、話題になっている番組の情報を知って、それを観たいという強い意思を持って訪問していただくことが多い状況です。このようなユーザーの動きを「目的視聴」と私たちは呼んでいます。そうした目的で来た人たちは、その番組を観たらそのまま帰ってしまいます。これはお目当ての番組を見る場所がたまたまTVerだっただけという状態です。そういった方は熱量を持ってご利用いただくケースが多いので、ストレスなく見たいコンテンツを届けることも大切にしているのですが、それと同時に800番組近く配信しているので他のコンテンツもぜひお楽しみいただきたい。なんとなくYouTubeを開いているとか、なんとなくTikTokを開いているとか。TVerもそういう存在になっていきたいですね。テレビを付けるときになんとなくTVerを開いてそこで時間を忘れて楽しんでいただくイメージです。
ーーつまりはザッピングですね。
宮島:ただ、インターネットのサービスはほとんどが検索やSNSのタイムラインを入り口にして見るもので、「見たいものを見る」ということが多いですよね。
ーー完全に能動的にやるものですね。
宮島:多くのサービスがそうだと思います。全ての起点は、ユーザーアクション。クリックをしてもらわなければ使っていただけない。なんとなくテレビの電源を入れるように、なんとなくTVerを開いて楽しんでいただきたいという思いはすごくあります。そのためにセレンディピティを高めてコンテンツに次々に出会ってもらい、明日も明後日もTVerを開くという習慣につなげたい。例えば、連続再生機能は大変悩みながらチューニングをしています。番組を跨いで連続再生するときにお気に入りやあとでみるに登録しているものを自動で再生するのは分かりやすい答えですが、それはもう見たいものをユーザーが事前に決めていますよね。
ーー“出会い”はないですね。
宮島:私たちはそこで新たなコンテンツに出会ってほしいし、それによって新たなTVerを利用する目的が生まれてほしいと思っています。そればかりになってしまっても目的視聴というユーザーの熱量を削いでしまう可能性もある。ユーザーが見たいものを見せることと、潜在的に見たいものを見ていただき新たな熱量を生み出すこと、すごく難しいのですがこの2つのバランスに腐心しながら取り組んでいます。連続再生の取り組み以外だと、最近縦長ショート動画機能もリリースしました。縦にスワイプして利用するショート動画は「なんとなくザッピングして探す」上でスマートフォンに最適化された形だと思っています。ここでもレコメンドのためにフィルターしすぎるようなことなく、新たな出会いができるように工夫していきたいと考えています。同じようなものは今後CTV(コネクテッドTV)でも提供していくつもりです。
ーーCTVの需要もかなり増えているみたいですね。CTVは能動的でも受動的でもあり、中間にあるように感じます。
宮島:そうですね。“リビングルームデバイス”と呼ばれることもあるくらいなので、ゆったりと楽しめる体験を提供したい。今はユーザーが一生懸命動画を探して再生している状態なので、まだまだ課題は多いと思っています。何もしなくてもそのまま「なんとなく」次々と見たかった動画に触れられるようなあり方が理想ですね。
ーーCTVのニーズが広がることで、テレビの前に帰ってくる人が増えているようにも思います。家族がスマートフォンでバラバラに見るのではなく、テレビの前に集まることが増えている気がします。
宮島:全てのお茶の間にTVerがある状態になるといいですね。お茶の間という言葉は死語かもしれないですが(笑)。あと意外と1人で住まれている方も、テレビはなくてもモニターは持っていることは多いんですよね。TVerでもCTVの利用割合がどんどん増えていますし、ぜひ、大きなモニターでくつろいでTVerをお楽しみいただきたいです。




















