朝ドラで描かれることは二度とない? 『ばけばけ』“スキップ”がもたらした異文化交流

松江の町に広がるスキップ……。NHK連続テレビ小説『ばけばけ』第38話では、ビアを飲んでご機嫌になったヘブン(トミー・バストウ)が見せたスキップをきっかけに、さまざまな人物がスキップを練習する展開となった。「スキップを練習する展開とは?」と書きながら不思議な気持ちになるが、第38話はそのようにしか説明できないだろう。
トキ(髙石あかり)は朝からスキップの練習に余念がない。不可思議な下駄の音に、フミ(池脇千鶴)は目を覚ます。フミもできない。足も動いていなければ、手の出し方もロボットのようだ。そこに、サワ(円井わん)も参加。トキにそっくりではあるが、トキやフミよりはリズム感があるように見える。とはいえ、腰が曲がっておりどこかぎこちない。

“ビア”と“スキップ”で仲が深まったのか、トキとヘブンは絵でやり取りをするようになっていた。トキは“パイナップル”のおつかいを頼まれる。パイナップルの名前を教えてくれた錦織友一(吉沢亮)の挑戦。手と足が同時に出ており、膝も曲がっておらず、誰よりもできていない。そこに、ヘブン宅へ偵察に来ていた司之介(岡部たかし)と勘右衛門(小日向文世)も参加。スキップ選手権の挑戦者がどんどん増えていく。誰が最初にできるのかと思いきや、もっとも姿勢がよくリズム感があるのは、勘右衛門というオチだった。
トキの護身用の木刀で遊んでいたヘブンに、怪訝な目を向けていた勘右衛門だったが、スキップを褒められて少しばかり上機嫌に。近所の子どもたちに自慢げに手本を見せる始末だ。そして、スキップを習得してにこやかな勘右衛門に恋の予感も到来。スキップが連れてきた恋とでもいうべきだろうか。一方、スキップがまったくできない錦織は、相変わらず江藤安宗(佐野史郎)に振り回され気味だ。手本として、できていないスキップを見せることになり、恥の上塗りになってしまった。恋に落ちたことをわからせる小日向の表情も、できないスキップで恥をかき死んだような目になる吉沢の表情、コメディ芝居の力量を感じさせる間の取り方も秀逸だった。

その夜、トキは立てつけの悪い引き戸で繰り返し音を立て、書き物をしていたヘブンの集中を妨げてしまう。アイデアが吹っ飛んだと怒り、トキを帰らせるヘブンだったが、その夜トキの優しさに触れることになる。寝室には蚊帳が準備されており、意図が伝わるように、絵まで準備されていた。蚊の殺生を嫌がったヘブンへの配慮なのだろう。
ヘブンは蚊帳の中に入り、ぐるりと一周見渡す。布団の周りが柔らかな布で囲われ、まるでテントのようだ。目尻を下げ、口をポカンと開けながら蚊帳の中を堪能するヘブンの表情、寝っ転がり手をあげて空間を楽しむ姿は、秘密基地を与えられた子どものようだった。知らない日本の文化に触れた喜びが、ひしひしと伝わってくる。
「ビア」「スキップ」「パイナップル」と、トキをはじめとした松江の人々が西洋の文化に触れる戸惑いと楽しさをユニークに描いてきた第8週。第38話の最後に、蚊帳に感動するヘブンの様子が描かれたことで、文化の交換が成り立ったように見えた。知らないものは怖い。でも知ってみると意外と楽しい。そんな文化交流の魅力が垣間見えた。
■放送情報
2025年度後期 NHK連続テレビ小説『ばけばけ』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00〜8:15放送/毎週月曜〜金曜12:45〜13:00再放送
NHK BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30〜7:45放送/毎週土曜8:15〜9:30再放送
NHK BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30〜7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:髙石あかり、トミー・バストウ、吉沢亮、岡部たかし、池脇千鶴、小日向文世、寛一郎、円井わん、さとうほなみ、佐野史郎、北川景子、シャーロット・ケイト・フォックス
作:ふじきみつ彦
音楽:牛尾憲輔
主題歌:ハンバート ハンバート「笑ったり転んだり」
制作統括:橋爪國臣
プロデューサー:田島彰洋、鈴木航、田中陽児、川野秀昭
演出:村橋直樹、泉並敬眞、松岡一史
写真提供=NHK























