新垣結衣から出口夏希、井森美幸から畑芽育へ イメージキャラの世代交代が示す時代の変化

冬の風物詩として親しまれてきた「メルティーキッス=新垣結衣」のイメージが、この冬ついに出口夏希へとバトンタッチされた。さらに、36年以上にわたり「モンダミン」の顔を務めてきた井森美幸も、製品リニューアルを機に畑芽育へ交代。国民的CMにおける「顔」の交代は、時代の空気や価値観の転換を映す鏡でもあるだけに、どちらも“長年愛されてきた看板女優”の交代として注目を集めている。
日本の広告文化では、ひとりのタレントが長く起用されることで、ブランドと人物のイメージが重なり合っていくことが多い。明治「メルティーキッス」における新垣結衣の存在は、その最たる例だ。冬が近づくとともに流れるCMの柔らかなトーンや、雪のようにとけるチョコレートとともに浮かぶ笑顔は、もはや季節を告げる合図のようでもあった。一方で、アース製薬「モンダミン」では、井森がじつに36年間にわたって出演を続けてきた。その親しみやすい笑顔は、どの世代にとっても家庭の中の安心の象徴となり、いつのまにか生活の風景の一部として溶け込んでいた。こうした存在は、商品の魅力を伝えるだけでなく、社会が求めてきた「安定」や「信頼」「清潔」といった情緒的な価値をかたちにしてきたと言える。だからこそ、その“顔”が変わることは、ブランドのリニューアルというよりも、時代そのものが求める価値観の変化を映しているように感じられる。
今回の交代はいずれも、ブランドのリニューアルと時代の流れが重なった絶妙なタイミングで行われた。「メルティーキッス」は、新垣の“冬の妖精”のような存在感があまりにも定着していたがゆえに、次の章を描く準備が整っていたのだろう。新しく起用された出口は、Z世代を中心に支持を集める若手女優。彼女の持つ透明感や、自然体でありながら凛とした表情は、SNS時代における「共感」の象徴でもある。かつての“永遠の癒やし”という幻想から、よりリアルで今を生きる“きらめき”へ。ブランドはその優しさを保ちながら、現代の息づかいを取り込もうとしている。一方の「モンダミン」は、コロナ禍以降の衛生意識の変化が大きな背景にある。これまでの“家庭の安心”という価値を大切にしつつも、“自分で選ぶ安心”という新しい視点を加えることが求められていた。そこに起用されたのが畑芽育。芯の強さと素直な誠実さをあわせ持つ彼女は、井森が長年築いてきた穏やかな親しみを受け継ぎながら、より現代的で主体的な清潔感を体現している。時代に寄り添いながらも、変わらない信頼を感じさせる存在だ。
“世代交代”の波は嗜好品の世界にも
この“世代交代”の波は、嗜好品の世界にも広がっている。サントリー「トリスハイボール」では、吉高由里子から永野芽郁へとバトンが渡された。吉高が築いてきたのは、“気取らない家飲み”という親しみやすい大人像。彼女の軽やかな笑顔と自然体の空気感が、ハイボールを「おしゃれで日常的な一杯」へと変えていった。その系譜を継ぐ永野は、明るさと等身大の感性を持ち、より広い世代へとその魅力を開いていく存在だ。彼女のナチュラルな雰囲気は、ジェンダーや年齢を超えて“誰もが楽しめるお酒”というブランドの新しい価値を感じさせる。また、同じサントリーの「角瓶ハイボール」では、井川遥から蒼井優へと引き継がれた。井川が体現してきたのは、凛とした上質さを持つ大人の女性像。その静けさの中に漂う余裕が、角瓶というブランドの品格を長く支えてきた。そこに蒼井が加わることで、世界観はより穏やかで知的な方向へと深まっている。彼女の柔らかな語り口と落ち着いた佇まいは、“味わう時間”という成熟した価値を、さりげなく伝えている。
4つの事例に共通するのは、ブランドの核となる価値を守りながら、その伝え方を現代に合わせてアップデートしている点だ。メルティーキッスの“冬の癒やし”、モンダミンの“家庭の安心”、トリスの“気取らない日常”、角瓶の“上質なひととき”。いずれも、時代を超えて人々に寄り添ってきたテーマである。その土台を崩すのではなく、表現やニュアンスを少しずつ変えることで、ブランドは今の生活者の感覚に自然にフィットさせている。
その中で、新たに起用された4人の女優には明確な共通点がある。いずれも、過度に作り込まれた“理想の女性像”ではなく、素の表情や自然体のリアリティで共感を呼ぶタイプだ。清潔感や透明感といったベーシックな魅力に加え、言葉のトーンや所作の中に確かな芯の強さを持っている点も共通している。
ブランドが世代とともに形を変えるように、女優たちの存在もまた、時代の価値観を映し出していく。4人の姿が示しているのは、憧れよりも共感、完璧さよりも自然体を求める時代の感性だ。






















