『良いこと悪いこと』『シナントロープ』 “群像劇×ミステリー”がドラマのトレンド?

登場人物一人ひとりにスポットライトをあてて、集団が巻き起こすドラマをそれぞれ異なる人物の視点から描く「群像劇」。多くのキャラクターが複雑に絡み合うことによって、ふとした行動が思わぬ結果を生み、やがて壮大なドラマに繋がっていく。
三谷幸喜が25年ぶりに民放GP帯連ドラの脚本を担当することで話題となった『もしもこの世が舞台なら、楽屋はどこにあるのだろう』(フジテレビ系)を筆頭に、秋クールは「群像劇」をテーマにした作品が多く目につく。膨大な数のキャラクターが舞台に上がる群像劇は、連ドラともなるとスケールはより大きく、より複雑にストーリーは絡まり合う。
「群像劇」と相性が良いジャンルといえば、謎が謎を呼ぶ「ミステリー」。物語に君臨するひとつの大きな事象を中心にして、多くの登場人物たちが渦を巻くように事件に引き寄せられていく。最初は関係ないと思っていた会話や出来事が思わぬきっかけで結びつき、それぞれの突飛な行動はドミノ倒しのように連鎖して、最終的にひとつの結末に収束する様は、爽快なだけでなく美しさすら感じてしまう。
秋クールの「群像劇×ミステリー」として注目したいのが『シナントロープ』(テレビ東京系)と『良いこと悪いこと』(日本テレビ系)。両作品ともに、初回から軸となる不可解な事件が発生し、さまざまな登場人物の思惑が入り乱れるサスペンス展開へと突入している。
『シナントロープ』 此元和津也が織りなす緻密な展開

街の小さなバーガーショップ“シナントロープ”で働く若者男女8人の人間模様と、犯罪組織“バーミン”のメンバーが企てる犯行が重なり合う『シナントロープ』は、漫画『セトウツミ』やアニメ『オッドタクシー』(2021年)でも知られる此元和津也が脚本を手がけている。元々、周到に張り巡らせた伏線や個性豊かなキャラクターが織りなす会話劇に定評があり、本作でも第1話からすでに此元作品の色が濃く滲み出していた。
スタイリッシュで洒脱な映像、視線誘導を促す技巧的なギミック、別々の会話に登場したワードを共有する遊び心に満ちた演出。キャッチボールが上空を飛び交うように、同音異義語や押韻でスイッチする会話劇は、画面で見える以上の奥行きを視聴者に与え、ミスディレクションのような効果を発揮している。恐らくすでに取りこぼしてしまっている仕掛けのタネがいくつもあるに違いない。

そして何よりも魅力的なのは、言葉の応酬で立ち上がる十人十色なキャラクター。出会った人々を鳥になぞらえるのが得意な水町ことみ(山田杏奈)や明るい調子と“キバタン”の愛称で親しまれる木場幹太(坂東龍汰)など、相関図やキャラクター紹介を確認せずとも、彼らの会話を聞いているだけでそれぞれの性格やクセが伝わってくる。ほかのメンバーに比べると個性が薄いように思える主人公の都成剣之介(水上恒司)も、此元節で紡がれるセリフと水上恒司のリアルな温度感の芝居によって、不思議と魅力的に映し出されている。何かと観ている人を惹きつける本作は、日常に潜む他愛のないやりとりを編み込んだ群像劇を、見事なまでにミステリアスな雰囲気に仕立て上げていた。






















