内山昂輝×羊宮妃那、『ワンダンス』で掴んだ“表現”への想い 「言語を飛び越えられる」

内山昂輝×羊宮妃那、“表現”への想い

 10月8日より放送中のTVアニメ『ワンダンス』は、ストリートダンスを題材に、自分の気持ちを上手く表現できない吃音症の小谷花木と、周りを気にせずダンスに打ち込む同級生・湾田光莉の青春を描いた物語だ。

 今回は主人公の花木(カボ)役を演じる内山昂輝と、ヒロインの湾田役を演じる羊宮妃那にインタビュー。役作りやお互いの演技に対する印象について、詳しく話を聞いた。【インタビューの最後には、サイン入りチェキプレゼント企画あり】

互いの演技に触発された部分

——本作ではカボのモノローグや言い淀んでしまう場面、少し声を荒げるシーンなど、内山さんの多様な演技がすごく魅力的だと感じました。こうした微妙なニュアンスの変化はどのように演じられましたか?

内山昂輝(以下、内山):カボは繊細な性格をしていて、自分から積極的に話しかけるタイプではないので、そこは丁寧に表現したいと思っていました。セリフは少なめで、モノローグが多かったので、その差を出すようにすると効果的にキャラクターが表現できるかなと考えていました。モノローグは流暢に喋れているけれど、セリフではなかなかうまく自分の気持ちを伝えられないというところを強調しました。

内山昂輝

——カボは吃音があるという設定ですが、それもすごく自然に演じられていると感じました。

内山:リアルさとアニメらしさはどちらも大切にしつつ、ナチュラルにできるところはできるだけナチュラルにしたいと考えました。吃音で悩んでいらっしゃる方に関するニュースやドキュメンタリー映像をとにかく観られるだけ観て準備しました。原作でもカボの吃音に関しては少し語られていましたので、参考にしつつ、カボのキャラクター性を表現する試行錯誤を重ねて、今の形にたどり着きました。ただ、アニメはわりと喋り始めが重なる表現が多く、「あ、あの……」とか「で、でも……」という“あるある表現”があるため、そこと差異化するのが難しいねという話を、スタッフの方々とも相談していました。「カボらしさを表現するにはどうすればいいのか」を毎回考えていました。

羊宮妃那(以下、羊宮):内山さんが演じるカボくんの言葉の詰まり具合に嘘がないので、私も役に入りやすかったです。アフレコを見させていただいたときに、カボくんが言葉に詰まったり、しっかり発音できなかったりする場面を、手や身体を使って表現されていました。笑い方一つとってもバランスを取るのがすごく絶妙で、見ている側としては、そういうところもすごいなと尊敬できるお芝居でした。

——ご自身の役作りと比べてどう感じましたか?

羊宮:私がもじもじしてしまう内気な子を演じるときは、なぜ言葉が出づらいのかという部分をすごく意識しています。怖いからその言葉が出せないのか、それとも言葉がまとまっていないから出せないのか、それともシンプルにそういう喋り方をしているのか、そこをディレクションなどで擦り合わせて、意識して演じるようにしています。

——そうしたさまざまなアプローチは、台本を読んだ時点で用意するものなのか、あるいは現場のディレクションで作り上げていくものなのでしょうか?

羊宮:私は両方あると思っています。もちろん事前に台本を読んだときに感じるものも大切ですが、現場で絵の表情を気にせず演技するというパターンもあるので。そのときは用意したものを全て捨て去ってでも、その場で頂くディレクションを最優先にしています。感情的にパっと出したものがOKを頂くこともありますし、そういう積み重ねが自分の引き出しにつながっていくと思っています。

羊宮妃那

——『ワンダンス』では事前に用意したものが、良い意味で実際の現場で変わっていったという経験はありましたか?

内山:羊宮さんのセリフを聞いて触発される部分はありました。あとは『ワンダンス』ではみんなが踊るところでダンスミュージックが流れたり、カボがそこにモノローグを乗せたりする場面もあります。自分なりのキャラクター表現に加えて、「こういう音楽の中でカボは湾田さんを感じているんだ」という感覚が乗っているので、そこは他の作品と違うところかなと思いました。

羊宮:湾田ちゃんはオーディションの段階では、今よりも息が多めの声でミステリアス感が強かったのですが、実際にアフレコをしていくにあたって、もう少し音をはっきり出したり、「もっと明るくていい」という人物像が基盤になっていきました。難しかったのは、湾田ちゃんならではの表情やリアクションで、例えば第1話の握力測定のシーンで「うわぁ〜」と唸るところなど、一応おうちでも何パターンか用意してきたのですが、「もっとやっていいよ」と言っていただいたので、そこはもう感情を解放する勢いで演じていました。

——たしかに、ミステリアスといっても、たとえば『小市民シリーズ』の小佐内ゆきとは違うだろうし、ラブコメ作品で求められるようなかわいい感じとも違うだろうし……。羊宮さんがどんな声で演じられるのかすごく楽しみにしていました。

羊宮:湾田ちゃんはミステリアスでも、元気でも、しっかり女子高生らしい感じでも、どの方向でも振り切れるので、オーディションの段階から掴みづらかったところはあります。ですがいざアフレコが始まったら、ダンスが大好きでまっすぐで、目に見えているものが全て……という湾田ちゃんの気持ちを優先させていけばいいと思えました。熱中して演じさせていただけたかなと思います。

(左から)内山昂輝、羊宮妃那

——まさに湾田はダンスに対する熱意がものすごいキャラクターですが、お2人にも同じくらい熱中していることはありますか?

内山:何かあるかな……。仕事以外で、ですよね?

羊宮:ゲームとか?

内山:ゲームもあまり……。映画は観るのが好きで、変わったブルーレイを買い集めていますが……。何か見つけようと思います。

——内山さんにとっては、仕事が一番と?

内山:そうなりますかね。何か欲しいですけどね、黙々と鍛錬していることは。

羊宮:私は最近気づいたことがあって……。例えば歌の練習で、ワンフレーズを何十回も歌って整えていくのは体力や気を使うのですが、ダンスは決めの部分をどのくらいの力加減で、どのくらいの角度で、表情はどのくらいで……と練習する分には何十回でもできてしまいます。もちろんどちらも体力を使うことには変わりないのですが、ダンスは小さい頃そんなふうに練習していた記憶があり……完璧になるまでやり続けたいと自分の中で思えているので、そういう意味では1人で黙々と熱中し続けられるなと。

——以前『真夜中ぱんチ』のダンス映像を拝見したときに、羊宮さんのダンスのキレがすごくて驚きました。

羊宮:ありがとうございます! 嬉しいです、そんなふうに言っていただけて。

【#真夜中ぱんチ】OPテーマ「#ギミギミ」踊ってみた〈#羊宮妃那(譜風役)〉

TVアニメ『ワンダンス』公式X(旧Twitter)より

——ダンスは今でもやられているのですか?

羊宮:今はスケジュール的に作品の中で携わらせていただくときに一から基礎をやる程度か、あとは空き時間に少しやっているくらいです。

——それでも時間がなくてもやるくらい、ダンスがお好きなのですね。

羊宮:好きですね。お仕事として関われるなんて光栄です。

「言葉」では捉えきれないもの

(左から)内山昂輝、羊宮妃那

——『ワンダンス』は言葉を使わないダンスがテーマとなっています。まさに話すことを仕事にしているお2人は、ダンスについてどう思いますか?

内山:真逆ですね。

羊宮:でも心が動かされるという意味では、共通する部分もあると思っています。例えば絵本にも言葉がないパターンがありますが、そこからも伝わってくるものがたくさんありますよね。心を動かされたり、描いている方の「こういうふうに感じてもらえたらいいな」という想いがあったり……。それはダンスも同じで、言葉がなくても心を動かせるもの、感じられる熱がたくさんあるのかなと思います。

内山:やっぱり職業柄いいなと思うのは、言語を飛び越えられるところ。僕らは日本語で表現していて、作品が海外の方にもたくさん楽しまれていますが、それぞれの国の言語の吹き替えで観ていただく可能性もあります。そうすると、自分たちの存在は消えてしまう。でもダンスだったら、日本語でダンスを学んだとしても、踊れるようになったら言語は関係なくなっていくので、そこはいいなあと思いますね。

羊宮:(拍手)!

羊宮妃那

——羊宮さんは絵も描かれていますよね?

羊宮:絵を描くのも好きです。

——そういった非言語の表現活動について、憧れや魅力を感じることはありますか?

羊宮:とてもあります……。最近はいろいろな言葉が流行しますが、どうしても、面白おかしく小バカにするようなものだったり、炎上につながってしまうものだったり、誰かを傷つける言葉が多いような気がして……。でも実際蓋を開けてみれば、その言葉にそこまで心がこもっているわけではないと思うんです。本当に「この人を傷つけてやろう」と思ってそういう言葉が出ているわけではないと思いたいので、そういう意味でも、一枚のイラストを通して「こうなんじゃないかな」「ああなんじゃないかな」と自分から考えを巡らせて、「じゃあこの問題は果たして本当にそこまで悪いことなのかな」とか「そこまで叩かれるようなことなのかな」とかいったことを、たくさん考えられたらいいなと感じたりします。

——お話を聞く限り、お2人とも「言葉」の表現に携わっていながらも、言語外の情報もすごく繊細に感じ取れる方々だなと感じます。同じ言葉でもいろいろなニュアンスやトーンの発声に日々向き合っている声優さんならではのことでしょうか。

羊宮:ありがとうございます。

——内山さんは、たとえば映像表現として映画に惹かれる理由はどこにあるのでしょうか?

内山:乱暴な言い方ですが……、映画は終わりが明確であることがいいなと思います。映像を観るというのは能動的だけど、受動的でもあるというか。本は自分で読み進めなければ終わらないけれど、2時間の映画は2時間で終わります。そこが好きな理由の1つですかね。

——本はあまり読まないタイプですか?

内山:本は仕事関係のもので埋め尽くされていて、その合間に読めるタイミングがあったらという感じですね。

内山昂輝

——台本は日々膨大に読まれるわけですが、どのように向き合っていますか?

羊宮:私は例えば自分よりもすごく長く生きているキャラを演じるときに、台本を読むだけでは全然掴めなくて。深みを出すためにはどうすればいいのかいろいろ調べながら試行錯誤したときは、さすがに脳が疲れたなという感覚があります。でもお芝居の歴がまだ浅いので、そんなに何か言えるほどにはないかもしれないです。

——内山さんから先輩として何かアドバイスはありますか?

内山:羊宮さんは声がとても良いので、惹き込まれるし、演技も作り込まれた感じがしない。もちろんそのキャラクターを作るという意味では作り込まれていますが、それ以上余計なことをしていないというか。今回の湾田さんについても、ちょっと変わったところもあるキャラクターを魅力的に表現されているので、とても良いなと思いました。声優という業界は仕事によってはすごく訓練した人がうまくいく場合もあるし、何もやらなくてもできてしまう人もいるし、なんとも言いがたいですね。

(左から)内山昂輝、羊宮妃那

——羊宮さんから見て内山さんのリスペクトできる点はどんなところにありますか?

羊宮:まず、現場でチラッと見えたんですけど、私からすると台本への書き込みが尋常じゃなくて……!

内山:(笑)。

羊宮:私の台本と全然違いまして……! 逆にどう書き込めばそうできるのだろうと思えるくらい、たくさん書き込んでいらっしゃって。セリフ量もすごく多いはずなのに、このチェックの仕方をすべてやっていたら、それはもう時間がどれだけあっても足りないと思うくらいすごいもので、リスペクトが止まらなかったです。ご自身がしっかりと納得されてからお芝居されているのも感じていて、ディレクションに対して「こういう意図があって演じたのですが、そのディレクションはこういう理由ですか?」といったことを逐一確認されているのをお聞きしたとき、台本も相まってすごく納得しました。マイクの前に立ってお芝居されるその言葉一つひとつが、本当にカボくんのものだなと。内山さんがここまでお芝居に向き合っているのを見て、すごく力になりました。

——貴重なエピソードをありがとうございます。

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