『エイリアン:アース』はファンならずとも必見 不気味なクリーチャーと重厚な人間ドラマ

相変わらずのユタニ社と新興勢力プロディジー社
『エイリアン』シリーズにおいて、ウェイランド・ユタニ社といえば超絶ブラック企業として知られている。これまでのシリーズでは、乗組員にミッションの本当の目的を知らせずに宇宙に送り出したり、ゼノモーフのサンプルを採取するためには人命は後回し、という数々の鬼の所業を見せてきた。『エイリアン:アース』の世界でもその非道さは相変わらず。モローはユタニ社に所属しているので、彼の不気味かつ非情な行動は基本的に社の利益になるものだ。
一方のプロディジー社は、「天才少年」と呼ばれるCEOのカヴァリエが創設者であり、新興でありながら急成長を遂げている企業だ。しかもハイブリッドの誕生によって、不死競争に新たな幕開けを告げたことも見逃せない。カヴァリエはもともと自身の知性を鼻にかけた鼻持ちならない人物だが、これによってさらに彼の生意気さは加速していく。そしてプロディジー社は実質的にカヴァリエのワンマン体制で、彼が決めたのであれば、非人道的な手段も辞さない。
そんななか、ユタニ社の宇宙船がプロディジー社の統治する土地に墜落したことで、2社間に緊張が走る。ここで展開されるのは“大人の”やりとりだ。それぞれに同じ分野で利益を追求する企業のトップ同士、そのかけひきにもぜひ注目してほしい。
「人間とはなにか」を問う人間ドラマ
本作の大きなポイントとなるのは、ウェンディをはじめとするハイブリッドたちが見た目は大人だが、中身はだいたい11歳くらいの子どもたちだということだ。『ピーター・パン』のネバーランドに住む子どもたちになぞらえて「ロスト・ボーイズ(迷子たち)」と呼ばれる彼らは、今まさに人格形成の途中にあり、周囲の大人たちの影響をもろに受けてしまう。彼らの周囲の大人たち、それはつまりカヴァリエやモローをはじめとする打算的な人物たちだ。
しかしロスト・ボーイズは、ハイブリッドとなる前の記憶も持っている。彼らにはそれぞれに大切にしていたものがあり、ウェンディにとってそれが兄のハーミットであったように、やはり子どもにとって「家族」はかけがえのない存在なのだ。その記憶が彼らを苦しめることにもなる。
人間、サイボーグ、シンセ、ハイブリッドが共存する『エイリアン:アース』が訴えかけるのは、「人間とはなにか」という問いだ。ウェンディは当初、人工の体を手に入れたものの自分は人間だと主張していた。しかしハイブリッドたちの管理役であるシンセのカーシュ(ティモシー・オリファント)は、彼女に「人間のふりをしないこと」と忠告する。そしてさまざまな出来事を経験するうち、彼女の心に変化が訪れるのだ。
中身が“子ども”であるがゆえに純粋なハイブリッドたちと、打算的な“大人”である人間たち。『エイリアン』シリーズでは、心のないシンセ(作品によっては「アンドロイド」と呼ばれていた)もゼノモーフとは違った恐ろしさを持つ存在として描かれてきたが、そこには彼らは「人間ではない」ことが恐ろしさの根底にあった。しかし本作で最も恐ろしいのは誰だろうか。「人間とはなにか」、つまり「“人間らしさ”とはなにか」という問いを投げかける重厚な人間ドラマも本作の見どころだ。
人間ドラマも見どころの1つ、というと『エイリアン』シリーズのファン、とくにゼノモーフの恐ろしさを愛している人々には物足りない作品なのではないかと思われるかもしれないが、そんなことはない。『エイリアン:アース』ではゼノモーフの新たな側面を探求しながら、よく知られた残虐な生態は変わらず、大勢が犠牲になるので安心(?)してほしい。また映画1作目の2年前ということで、宇宙船などのテクノロジーはそれを彷彿とさせるレトロフューチャーなデザインが楽しめる。
「ゼノモーフがついに地球に襲来!」というより、時系列で言えば『エイリアン』以前に実はすでに地球にやってきていたという過去が明かされる『エイリアン:アース』。未知の生命体との死闘を描きながら、ハイブリッドという新たな“生命”の成長と人間性に関する重要な問いを投げかける本作は、良質なエンターテインメントであり、深い洞察に満ちた作品だ。シリーズのファンにも、そうでない人にも、ぜひ楽しんでほしい。
■配信情報
『エイリアン:アース』
ディズニープラス スターにて独占配信中
出演:シドニー・チャンドラー、アレックス・ロウザー、ティモシー・オリファント、エッシー・デイヴィス、サミュエル・ブレンキン、バボー・シーセイ、デヴィッド・リズダール、エイドリアン・エドモンドソン、アダーシュ・ゴーラヴ、ジョナサン・アジャイ、イラーナ・ジェームズ、リリー・ニューマーク、ディエム・カミラ、モー・バーエル
クリエイター:ノア・ホーリー
製作総指揮:リドリー・スコット、デイビッド・ツッカー、ジョセフ・イベルティ、ダナ・ゴンザレス、クレイトン・クルーガー
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