朝ドラでなぜ今“明治”を描くのか 『ばけばけ』を“なんでもない物語”にした意図をCPに聞く

髙石あかりがヒロインを務めるNHK連続テレビ小説『ばけばけ』が、9月29日から始まる。松江の没落士族の娘・小泉セツとラフカディオ・ハーン(小泉八雲)をモデルに、西洋化で急速に時代が移り変わっていく明治日本の中で埋もれていった人々を描く。「怪談」を愛し、外国人の夫と共に、何気ない日常の日々を歩んでいく夫婦の物語。
ドラマの時代設定は明治初期。大阪局が時代物の朝ドラを手がけるのは、2015年度後期に放送された『あさが来た』以来、実に10年ぶりとなる。
制作統括の橋爪國臣は「時代物をやるのは、かなりのチャレンジ」とし、「大阪局では大河ドラマも制作していませんし、時代劇を経験したスタッフが少なくなっている。もちろん京都撮影所のスタッフさんにも協力していただきますが、かつらや衣装を含めてお金も時間もかかるんですよね。その上で検討を重ねて、結果的に進めていくことにしました」と語る。

「日本の近代史には大きな転換点が2つあると思っていて、一つは幕府が終わって明治政府になったこと。もう一つは、第二次世界大戦の敗戦によって国のかたちが変わったこと。ドラマや映画ではその時期を描くことが多いですが、現代の人が感じている閉塞感のようなものは、実は明治初期に通じているのではないかと。細かいところを見ていくと、“今までずっと信じてきたものが急に変わって混沌としていく”という明治時代と現代が似ているのでは、という思いがあり、今の人たちに刺さるドラマになるんじゃないかと考えました」(橋爪)
また、演出の村橋直樹も「幕末や日清・日露戦争あたりの作品はよくありますが、小泉八雲さん夫妻が生きた時代はその端境期。“明治維新が起きたら右へ倣えで西洋化して、みんなが現代人に近い感覚になった”と思いがちで、変わらなきゃいけない時代に流されていた人たちはあまり描かれていないんですよね」と指摘。「僕と橋爪が一緒にやった大河ドラマ『青天を衝け』では時代を牽引した渋沢栄一さんを描きましたが、僕はその裏に流れていた人たち、歴史の陰に隠れている人たちがどう生きたのかをいつか扱いたいと思っていました」と続けた。
こうした思いを形にするため、脚本家のふじきみつ彦には「何かを成し遂げた人たちではなく、一般の人たちが普通に生きている話を作りたい」と執筆を依頼。
橋爪は「ふじきさんは、ごく普通のことを何かあったかのように描くのがとても上手くて、しかもそれがめちゃめちゃ面白い。本作も、その持ち味が前面に出ていると思います。ふじきさんは過去に、“瓶の蓋が開かない”というだけで30分やり切ったこともある方ですからね(笑)(※『有村架純の撮休』)。一般人の普通の生活に焦点を当てた、彼にしか描けない作品になっていると思います」と手応えを明かす。

一方、演出面ではふじき脚本ならではのセリフ回しをどう時代劇に落とし込むのかが課題となった。
「もちろん時代劇の最低限は担保していますが、このドラマは喋り方がすごく現代的。ふじきさんの脚本でこの時代を描くこと自体が、一つの挑戦でもあったと思います。“ふじきさんの良さを消さないこと”と、“時代劇らしさを残すこと”は両立しづらいところがある。だからこそ美術と映像技術にはものすごくこだわって、大阪局ではなかなかないレベルのセットを組んでいます。映像的に時代劇らしさを確保していくことが、演出上の大きなテーマでした」(村橋)
加えて、村橋は「俳優部の中にも『この世界線はどういうラインでやっていくんだ』と戸惑われる方もいました。『ここは時代劇らしく』『ここは現代的になってもいい』といった境界線の設定が難しかったですね」と振り返り、それでも「ふじきさんのセリフを残さなければ、ふじきさんにお願いした意味がない」と力を込めた。


















