『ばけばけ』OPは『あんぱん』から路線変更? ハンバート ハンバートの温もりと寂しさが同居

ほの暗くて、ほの温かい。9月29日から始まる2025年度後期NHK連続テレビ小説『ばけばけ』の予告映像を見たとき、暗がりをぽつんと照らす灯火のような不思議な温度を手のひらに感じた。そして、本作の主題歌を担当することになったハンバート ハンバートの音楽にもまた、手触りのある温もりのなかに、確かな悲しみや寂しさが同居している。だからこそ、ほの暗くてほの温かい彼らの音楽が、『ばけばけ』の世界をかすかに照らす主題歌に選ばれたことが、何よりも嬉しくてしかたがなかった。
ハンバート ハンバートは、夫婦でもある佐野遊穂と佐藤良成のふたりからなるデュオ。ぽかぽかとした陽だまりのように明るい佐野の伸びやかな歌声と、心の奥に懐かしく響く佐藤の歌声が奏でる心地いいハーモニーを聴いていると、どれだけ忙しない日々を送っていても心がほっと落ち着くのを感じる。
そんな彼らは今までも、愛おしい物語にそっと寄り添うような音楽を手がけてきた。ハンバートハンバートの楽曲「ぼくのお日さま」にインスピレーションを受けた奥山大史監督が制作した映画『ぼくのお日さま』(2024年)では、同作の主題歌とともに、佐藤は劇伴も担当している。吃音のある少年・タクヤ(越山敬達)と、彼が淡い恋心を抱く少女・さくら(中西希亜良)、彼らにフィギュアスケートを教えるコーチ・荒川(池松壮亮)。触れたら壊れてしまいそうなほど繊細な関係性と、3人の心の揺れ動きがていねいに描かれる本作に流れるハンバートハンバートの音楽は、物語にたゆたう寂しさや口惜しさをすべて優しく包みこんでくれた。
さらに、児童養護施設に暮らす子どもたちと職員たちの日常に密着した竹林亮監督のドキュメンタリー映画『大きな家』(2024年)には、映像を観る前に制作されていた楽曲「トンネル」を主題歌として提供している。当たり前に思い悩んだり、そばにいる人の言葉に笑顔を浮かべたり、等身大に感情を動かす子どもたちの日々は決して特別な光景ではない。それでも「トンネル」の〈暗いところを歩いてた/誰かの呼んでる声がした〉という一節にも表れているように、そこはかとない不安と消えることのない光が歌詞には込められていて、さまざまな背景を抱える彼らの何気ない日常を支えているように思えた。
そして、ゆっくりと進んでいく人々の歩幅に合わせて、決して急かすことなく手をつなぐように音楽を紡いできたハンバート ハンバートが、満を持して朝ドラの主題歌を担当する。
松江の没落士族の娘・小泉セツとラフカディオ・ハーン(小泉八雲)の、“怪談”を愛する夫婦の半生がモデルとなった『ばけばけ』に書き下ろした楽曲のタイトルは「笑ったり転んだり」。初披露となった8月26日の『うたコン』(NHK総合)のステージで、佐野と佐藤のふたりがゆったりと交互にデュエットする姿を観て、ストーリーや情景が目に浮かんでくるようだった。




















