『あんぱん』は長い長い“始まりの物語” のぶと嵩が見つけた絶望と隣り合わせの希望

“逆転しない正義”を追い求めたのぶ(今田美桜)と嵩(北村匠海)の旅路が、とうとう終わりを迎えようとしている。テレビ局のプロデューサーである武山(前原滉)の熱烈な説得により、『アンパンマン』のアニメ化企画がスタート。今もなお歌い継がれる「アンパンマンのマーチ」の作詞を嵩が務め、愛情を込めて育てたアンパンマンが、さらに大きな空へと羽ばたくための土台が整うこととなった。
9月26日に最終回を迎えるNHK連続テレビ小説『あんぱん』は、長い長い“始まりの物語”だった。今の『アンパンマン』の原型となるキャラクターが登場したのは、なんと第105話。折り返し地点をとうに通り越して、物語の終盤とも呼ぶべき段階だ。筆者が幼い頃より、多くの子どもたちに夢と希望を与えてきたアンパンマンが、ここまで終わりのない試行錯誤の末に生まれた産物だとは思いもよらなかった。

『アンパンマン』が誕生してからも、決して順風満帆の道のりだったわけではない。のぶからは「太ったオンちゃん」の愛称で親しまれていたが、周囲の反応は芳しくなく「カッコ悪い」「今ひとつ地味」と言われてしまう。それでも、酷評の嵐の中をめげずに飛び続けたアンパンマンは、比類なき景色を切り拓いていく。
旧知の仲となった八木(妻夫木聡)やいせたくや(大森元貴)の尽力もあり、のぶと嵩の夢を乗せて、子どもたちに勇気と元気を届けるようになったアンパンマン。しかし、誕生に至るまでの軌跡をたどってみると、希望に溢れた光よりも、絶望に落ちた影の部分のほうが印象に残っている。

幼い頃から「はちきん」と呼ばれたのぶと、彼女に「たっすいが」と叫ばれる嵩。初々しいやりとりも見せていた、のぶと嵩の人生の前に立ちはだかった戦争は、夢に向かってひたむきに歩むはずだったふたりの運命を大きく変えてしまった。それぞれ次郎(中島歩)と千尋(中沢元紀)という大切な身内を亡くし、戦中はいとも簡単に正義がひっくり返ってしまう瞬間を目の当たりにする。それでも、のぶと嵩が喪失を乗り越えて、“逆転しない正義”という新たな夢と目標を共有することで、アンパンマンへと通ずる道が始まったのだ。
本作で6度目の共演を果たした今田と北村の関係性も、息の合った掛け合いでのぶと嵩が信頼を深めていく歩みに寄与していた。のぶを演じた今田が御免与町を快活に走り回り、誰よりも目を輝かせていた姿も懐かしい。一度は軍国主義に染まり、後悔を抱えたまま無我夢中で夢を追い求めたものの、最終的に何者にもなれなかった。のぶの人生は全速力で走っては立ち止まることの繰り返しだったが、目に光と影を交互に宿しながら、彼女の好奇心と葛藤をていねいに表現してくれた。




















