『8番出口』は“映画ファン”こそ必見 達人揃いのスタッフ・キャストが作り上げた最適解

これらのビジュアルデザインを含めた映画的アイデアの豊富さにおいて、共同脚本と監督補に名を連ねる平瀬謙太朗の功績はかなり大きいのではないか。思わず逃げ出したくなるような「イヤな雰囲気」「不気味な状況」等々のシーン設計も、そこに含まれるはずだ。冒頭の地下鉄車内のシーンを筆頭に、延々と繰り返される廊下の迷宮めぐり、そして登場人物を見舞うショックと絶望の連続は、不条理でありながらも生々しいリアリティがある。平瀬が共同監督を務めた『連続ドラマW 災』(2024年)、映画『宮松と山下』(2022年)にも共通する一筋縄では行かない作風が、本作には活きている。

主演俳優・二宮和也も、映画版『8番出口』に生命を吹き込んだクリエイターの1人だ。ほぼ一人芝居状態で作品を牽引し、現代の不運な若者像を痛ましさとともに背負う姿には、胸を打たれずにいられない。同時に、映画俳優としての華、観客の視線を一身に集めるカリスマ性も堪能できる。前述の「わかりやすさ」も、彼のテンポのいい芝居によるところが大きく、熱心なゲーマーでもある二宮自身の感性とコントロール技術も、現場で役立ったことは想像に難くない。脚本協力というクレジットにも納得がいく。

海外版キービジュアルにも採用されるほど絶大なインパクトを放つ河内大和、奇しくも同日公開の『九龍ジェネリックロマンス』(2025年)とともにエキセントリックな演技力を印象づける花瀬琴音、そして出演シーンはわずかながらも重要な役を儚く演じる小松菜奈といったも競演陣も、それぞれに忘れがたい。メジャー大作からインディーズ作品まで幅広く手がける音響効果の北田雅也ほか、達人揃いのスタッフワークも楽しめる。プロの映画人の職人技と、若く新鮮なクリエイティブの出会いが、「最適解を見つけ出すことに全力を傾けたプレイヤー」のもとで、幸福に結晶化した好例と言えようか。「ヒット作」という看板につい抵抗感を抱いてしまうような映画ファンにこそ、偏見を捨てて観てほしい一作だ。
■公開情報
『8番出口』
全国公開中
出演:二宮和也、河内大和、浅沼成、花瀬琴音、小松菜奈
原作:KOTAKE CREATE『8番出口』
監督:川村元気
脚本:平瀬謙太朗、川村元気
音楽:Yasutaka Nakata(CAPSULE)、網守将平
配給:東宝
©2025 映画「8番出口」製作委員会
公式サイト:exit8-movie.toho.co.jp
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