二宮和也は“迷う”からこそ“魅せる”ことができる 『8番出口』の繊細な芝居を読み解く

二宮和也が魅せる“迷い”の芝居

 二宮和也主演の映画『8番出口』が8月29日に公開され、SNSでは早くも「大傑作」「めちゃくちゃ面白い」と話題だ。本作は、インディーゲームクリエイターのKOTAKE CREATEが制作したゲーム「8番出口」を実写化した作品である。

 映画の公式サイトでは、「異変を見逃さないこと」という謎めいた指示が少し記載されているのみで、情報はほとんど明かされていない。

 一体どんな映画なのか。少しでも情報を知りたいと感じた私は、本作の監督を務める川村元気が執筆した小説『8番出口』を読んだ。ストーリーは、駅の中を主人公が出口を求めて迷うという、実にシンプルな構造だ。場面はほぼ、蛍光灯が灯る無機質な白い地下通路のみ。だからこそ、主人公の「迷う男」の表現力が試される。

 けれども私は、主演が二宮と知り「これは絶対に傑作になる」と確信した。本作に登場する「迷う男」を演じる二宮の姿が、ありありと脳内に浮かんできたのは、これまでドラマや映画で何度も彼の丁寧で繊細な演技に触れてきたからだろう。

 謎のベールに包まれた映画を、演技力に定評のある二宮がどう演じたのか。本記事では、『8番出口』における二宮和也の繊細な演技に、なぜ魅了されるのかという謎を解明していく。

 本作は、主人公である「迷う男」が、出口を求めて地下通路を彷徨う物語。序盤は地下通路に迷い込むまで二宮の「目線」が映るため、男の顔は映らない。

 つまり、最初のうちは二宮の「声」と時折入る「咳き込み」の演技のみで話が展開していく。なお、迷う男が「咳き込む」理由については、小説の中で「数年前に流行した新型コロナの後遺症で、慢性的な喘息を患っている」という設定について触れられている。

 迷う男は、彼女からの電話に戸惑う。電話に出る彼女は「どうする?」と男にある「問い」をする。男は、彼女から決断を迫られると、咳き込みがより一層酷くなる。

 主人公の男は、彼女からある「決断」を迫られていた。けれども、責任を負う自信が持てず、決断ができない。そんな「迷う男」の心理を、二宮は重く低い声と「咳き込み」によって、巧みに演じていた。

 地下鉄に迷い込んでしばらくした頃、二宮の顔がようやく映る。土気色で覇気のない顔からは、不安と自信のなさが表れていた。男は、眉をしかめつつ、目を右往左往させながら周りをキョロキョロと確認し、一歩ずつ前に進んでいく。やがて男は、地下通路を無限ループしていることに気づく。生気を感じなかった男の目に、少しずつ力が入り、咳き込みも酷くなる。

 やがて、男は8番出口のルールである「異変を感じたら引き返す、なければ前に進む」に気づき、懸命に「異変」を探していく。男が異変を探すシーンでは、劇場内でも「あれ、異変?」「あっ」と声を上げる人がいた。きっと、二宮の演技があまりにリアルだからこそ、感情移入してしまったのだろう。

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