『しあわせな結婚』は坂元裕二&宮藤官九郎? 大石静だからこそ描ける松たか子=鈴木ネルラ

『しあわせな結婚』は坂元裕二&宮藤官九郎?

 阿部サダヲと松たか子が主演を務める現在放送中のテレビ朝日系木曜ドラマ『しあわせな結婚』。予測不能なサスペンスと、先の読めない大人のラブストーリーが融合した本作が、多くのドラマファンの間で話題を呼んでいる。

 脚本を手がけるのは、2024年のNHK大河ドラマ『光る君へ』も記憶に新しい大石静。得意とする濃厚なメロドラマとは一線を画す作風に、放送初回から「これは本当に大石静作品?」と驚きの声も上がった。そんな本作の脚本について、ドラマ評論家の成馬零一氏はその意欲的なアプローチを分析する。

「本作の第1話を観たとき、脚本家の名前が伏せられていたら大石静さんとはもしかしたらわからないかもしれないと思いました。脚本家・坂元裕二さんが手がけ、阿部サダヲさんと松たか子さんが出演した『スイッチ』(テレビ朝日系)の続編のようにすら見えたんです。松さんといえば坂元裕二作品のミューズというイメージが強いですし、『カルテット』(TBS系)や『大豆田とわ子と三人の元夫』(カンテレ・フジテレビ系)で演じたキャラクターと、『しあわせな結婚』のネルラにどこか重なる部分もありました。極端な言い方をすると、大石さんが、坂元裕二の作風を自身の中に取り込もうとしているのではないかと感じました」

 さらに成馬氏は、坂元裕二だけでなく、宮藤官九郎からの影響も見て取れると指摘する。

「大石さんは宮藤さんと共同脚本の形で、Netflixシリーズ『離婚しようよ』を手がけています。『しあわせな結婚』は会話の中で固有名詞が多用され、実在する歌手の松崎しげるが本人役で登場して『愛のメモリー』を歌う場面があるのですが、これは宮藤さんが得意としている手法ですね。また阿部サダヲさんが主演でテレビ業界の内幕をコミカルに描く描写は『不適切にもほどがある!』(TBS系)を彷彿とさせます。つまり、坂元さんと宮藤さんの作風を意識的に取り入れて、新しいドラマを作ろうとしているのですが、全く破綻せずに完成度の高い脚本に仕上がっているのは流石だと思いました。『光る君へ』が大石さんがこれまで作家として培ってきた技術や魅力をすべて反映させた集大成だったとすると、『しあわせな結婚』は、脚本家として新たな武器を手にするための一作のようにも感じます」

 では、様々な脚本家の要素を取り入れながらも、本作を“大石静のドラマ”たらしめているものは何なのだろうか。成馬氏は、そこに“肉体性”があると続ける。

「大石さんの代表作といえば『セカンドバージン』(NHK総合)のようなシリアスなメロドラマですが、本作ではそこを敢えて外しています。その上で、大石さんらしい“肉体性”の描き方は健在です。例えばネルラと幸太郎(阿部サダヲ)がクロワッサンを食べるシーン。幸太郎が丁寧にこぼさないように食べるのに対して、ネルラはこぼれるのもお構いなしにバリバリ食べるんです。『しあわせな結婚』の男性陣より、ネルラの方が肉体的に“強い”感じが出ているというか。ほかにもネルラがやけに艶っぽい足の動き方をするシーンがあるんです。こういった女性の所作にあらわれるディティールを細かく描くことができるのは、坂元さんや宮藤さんにはない大石さんならではの魅力だと思います。ただ、“強い”女性と言っても、これまでの大石作品の女性主人公とは少し違います。今まで大石さんが描いてきた主人公が、どちらかと主体的に行動する攻撃的な女性だったの対して、本作のネルラは基本的には受け身で何を考えているのかわからない。でも、なぜか周囲の人間は彼女のペースに巻き込まれていってしまう。松たか子さんが演じていることの影響も大きいと思いますが、ネルラの持っているミステリアスな受動性に大石さんは現代性を感じているのかもしれません。彼女が最終的にどんな人物として描かれるのかが本作の肝であり、大石さんの作家性が現れる部分になると思います」

 物語は中盤に差し掛かり、ネルラが過去に殺人を犯したのか、それとも別犯人がいるのか、その謎は深まるばかりだ。今後、この“マリッジ・ラブストーリー・ミステリー”はどこへ向かうのか。成馬氏は、物語の核心についてこう予測する。

「最終的な謎は、事件の真相そのものではなく、『ネルラがどういう女性なのか』ということになるでしょう。これは坂元裕二さんが描き続けてきたテーマでもありますが、大石さんが描くことで、男から見た“女性の分からなさ”をミステリーの枠組みで描いているように感じます。鈴木家旅行中のカラオケシーンが象徴的なように、男たちのワチャワチャも描けるのも大石さんの強み。“かわいい”男性たちが、得体のしれないネルラにどう翻弄されていくのか、最後まで目が離せないですね」

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