『しあわせな結婚』が夏ドラマの本命に 第1話から圧倒された松たか子の“三段階”の変化

大石静脚本『しあわせな結婚』(テレビ朝日系)は、傑作の予感がする。「股関節がちょっと」と片足だけ変な歩き方をしたり、斬新なクロワッサンの食べ方をしたりする、松たか子演じる鈴木ネルラのなんとも奇妙な佇まいに目が離せないのはもちろんのこと、阿部サダヲ演じる独身主義者の主人公・原田幸太郎が「うっかり」結婚してしまう理由もなんだか身に沁みるからだ。
そしてそこから広がる闇深き「しあわせな結婚」の世界。幸太郎と同じ“独身主義者”も、結婚している人も、もしくは結婚に夢を抱く人も、恐る恐る本作が描く「結婚生活」の深淵を覗き込まずにはいられない。そんな夏が始まりそうである。
第1話は圧巻だった。『セカンドバージン』(NHK総合)、『大恋愛~僕を忘れる君と~』(TBS系)、『恋する母たち』(TBS系)など、珠玉の恋愛・結婚ドラマを描いてきた大石静が、大河ドラマ『光る君へ』(NHK総合)で作家・紫式部の人生を通して、彼女が貫き通した1つの恋と「物語」を描きつくした後、何を描くのか。そういった意味でも注目度の高い大石静の完全オリジナル作品である本作は、どこかサスペンス要素を越えてホラーのようなテイストで「結婚」を描くマリッジサスペンスだ。

尚且つ『青天を衝け』(NHK総合)、『ひよっこ』(NHK総合)などを担当し『さよならのつづき』(Netflix)を手掛けた黒崎博の演出が、「結婚」が持つ光と影に、より深みを持たせている。さらには映画『夢売るふたり』、坂元裕二脚本のドラマ『スイッチ』(テレビ朝日)など多くの作品で共演経験のある阿部サダヲと松たか子の組み合わせである。
何よりドラマそのものの枠組みを超越したかのような、いや、むしろ本作の根幹部分とも言える、松たか子演じるネルラの不思議さが癖になる。前述した特徴的な歩き方や食べ方に限らず、予想のできない言動の数々、さらには宮沢賢治『銀河鉄道の夜』のカンパネルラからとったという名前「ネルラ」の神秘的な響きからして、「面白い」と「美しい」と「ミステリアス」が一体化した奇妙な佇まいは、主人公・幸太郎が、50年間頑なに貫いてきた“独身主義”をあっさり捨ててしまうほどに蠱惑的な何かだ。だが、その謎めいた魅力には三段階の変化があって、それが、本作が描こうとしている「結婚」というものの面白さをより強烈なものにしている。

まず、人気弁護士であり、テレビ番組にも出演する本作の主人公・原田幸太郎が、突発的な身体の異変により手術・入院を経験したことで、とてつもない孤独と不安に襲われ、その間出会った女性と衝動的に結婚するのは、わりと共感しやすいエピソードと言えるだろう。それまで「家に自分以外の誰かがいるの駄目」と思っていた彼でも、実際に真に迫った「孤独」を体験してしまったら、長年の信念など簡単に揺らいでしまう。だからこそ視聴者は、ネルラと、寛(段田安則)や考(岡部たかし)、レオ(板垣李光人)といったネルラの家族たちという謎多き面々でなく、幸太郎に感情移入する形で本作を見つめることになる。そして本作は、そんな彼が体験する「結婚」=ネルラの謎に迫る物語なのではないか。






















