『しあわせな結婚』の中毒性はどこから来るのか “怒らない”登場人物たちが生み出す緩急

『しあわせな結婚』の中毒性はどこから来る?

 “夫婦の愛を問うマリッジ・サスペンス”として、7月から放送されているドラマ『しあわせな結婚』(テレビ朝日系)。物語の主役は、タレントとしても人気の弁護士・原田幸太郎(阿部サダヲ)と、ミステリアスな雰囲気をまとう美術教師・鈴木ネルラ(松たか子)。

 電撃結婚から始まる彼らの物語は、ネルラに殺人の疑いがかけられた事件の再捜査、幼い弟の事故死など、タイトルにある“しあわせ”からはきわめてほど遠い要素で満ちている。

 一方で本作はどこかコミカルで、普段「ホラーとかサスペンスとか怖くて無理!!」となりがちな筆者でも心穏やかに視聴できてしまう。『しあわせな結婚』は、なぜこのような心境を観る人に引き起こすのだろうか?

 まずは何といっても、緊張感と安心感の絶妙なバランスだろう。8月7日に放送された第4話では、前回までを振り返る冒頭はシリアスな描写が続く。ネルラが気を失い、わずかに戻った事件当時の記憶によって2人が言い合いになり、幸太郎が家を出ていく……。不穏な音楽とうずくまるネルラの姿も相まって、張り詰めた空気が漂っていた。

 しかし、一人暮らしの家に帰った幸太郎の朝の様子では、食パンの匂いを嗅いだ幸太郎がパンへ「待っててね」と話しかけるようなジェスチャーがはさまれ、これまでの流れが変わる。後には2人の過去の幸せなシーンを含めた回想や、叔父が持ってきてくれたおにぎりなどの寂しさがありつつも人の温かさが漂う描写によってが散りばめられており、視聴者はほっと一息つけるのだ。

 笑いへの配慮も万全で、追って描かれる刑事・黒川竜司(杉野遥亮)と幸太郎が対峙する場面の前には、幸太郎の元恋人・内藤つばさ(小雪)が幸太郎に言い寄るシーンがはさまれる。「一人に戻ったら連絡して」「きっと、また蹴ってほしくなるから」という内藤の言葉と明るい劇伴が重なり、その後の深刻なシーンとは対照的なポップな余韻がしばらく心に残っていた。

 さらにコメディタッチの場面にもわずかに緊迫感が残されており、この塩梅も見事だと感じる。幸太郎が鈴木家の男衆3人と一緒に温泉に入り、口を半開きにして居心地が悪そうに端に体を寄せていたり、鈴木家の長・寛(段田安則)が付き合っていたと思っていた女性の夫に訴えられ、ちょこちょことした小走りで女性へ電話をかけようとしたり……。本人たちは真剣にもかかわらず、気まずさや焦りがにじみ出る様子が結果的に面白いのだ。

 この切迫した空気感とリラックスして楽しめる時間、くすっと笑える場面の配分が、『しあわせな結婚』をくつろいで視聴できる大きな理由なのだろう。

 また、本作が“笑い”が引き立ちやすい構造である点も、視聴者の心象に影響しているのではないだろうか。事件当時のフラッシュバックをはじめとするシリアスな場面の後になめらかに差し込まれる、登場人物たちのおかしな行動。このギャップが笑いを際立たせ、さらにほかの作品にはない中毒性すら生み出している。

 例えば第4話の後半では、黒川と刑事部長、かつて事件の捜査を打ち止めにした警備部長が話す重々しい一幕に、学校で無我夢中に絵を描くネルラの不吉なシーンが続く。しかしその後、寛の潔さと温かみが滲むエピソードが続き、またもや内藤と幸太郎のやり取りが訪れる。幸太郎をからかう内藤の振る舞いもそればかりでは飽きが来そうなものだが、ハラハラする場面の後に描かれることで、愛おしくすら思えてしまった。

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