『タコピーの原罪』は“『ドラえもん』の深化版”? 作品に込められた思想を徹底考察

『少年ジャンプ+』で連載された、タイザン5による漫画作品『タコピーの原罪』。その同名アニメ化シリーズが、好評のうちに終了した。「2025年最高の日本アニメ」との声も少なくなく、海外でも、エクストリームかつ心をえぐってくるような内容が話題となっている。
ここではそんな、ショッキングな展開が連続しつつも目を離せない本シリーズ『タコピーの原罪』が、作品に込めたものが何だったのかを、できるだけ深く考えていきたい。
※本記事では、『タコピーの原罪』のストーリーの重要部分を明かしています
本シリーズで誰もが驚くのは、露悪趣味とすら感じられる悲痛な展開だ。冒頭の視聴者へのテロップにおいて、「本作品には一部、命に関わるセンシティブな描写が含まれています。原作の意図を尊重し、映像として表現したものであり、 決して当該行為を推奨するものではございません」と注意喚起しているように、第1話で衝撃的な場面が描かれるのである。
主人公となるのは、“ハッピー”を広めるために地球へとやって来た、「ハッピー星人」。空腹で動けなくなっているところに現れたのは、小学四年生の久世しずか(しずかちゃん)。彼女は、給食の残り物のパンを与えると、喜ぶハッピー星人を、その見た目から「タコピー」と名付けた。
不思議な力を持った、数々の「ハッピー道具」を持ったタコピーの存在や、空き地に土管が積まれているなどの要素からは、名作漫画『ドラえもん』の雰囲気を感じさせ、日常の描写とファンタジックな表現が合わさった、子どもに夢を与えるストーリーであることを予感させる。だが、それは作り手の仕掛けたミスリードである。
タコピーは、ゆるふわな絵柄で、「とっても楽しいっピ!」などと愉快な語尾で明るく話しかけ、しずかちゃんに笑顔になってもらいたいと、ポジティブにはたらきかけ続ける。しかし、しずかちゃんは学校で、まりなちゃんというクラスメートなどから凄絶ないじめを受けていて、ハッピー星人であるがゆえ、それに気づかないタコピーの能天気な態度に冷ややかな態度を取る。そうこうしていると、しずかちゃんはハッピー道具をロープとして使い、自死してしまうのだ。
この展開は、多くの視聴者にとって、あまりにもショッキングだ。アニメーションを含めた創作において、自殺の要素自体は珍しいものではなくなっているが、小学生のような子どもが強く危害を加えられたり、あまつさえ自死するという表現は、基本的に忌避されるのが通常だ。TVアニメ作品では、なおさらである。さらに本シリーズには、DVやネグレクト、子どもへの暴力などの要素もある。だからこそ、TBSの企画ながら地上波での放送を避け、配信オンリーとなっているのだ。これは、誰もが“たまたま”見てしまうという可能性を避けるためだと考えられる。
そこまでして、わざわざ作品を製作するというのは、かなり異様だといえる。しかし、本シリーズのプロデューサーが、須藤孝太郎だと言えば、納得できる人もいるだろう。須藤プロデューサーは、キングレコード時代にTVアニメ『ポプテピピック』や、TBSに移った後も映画『たべっ子どうぶつ THE MOVIE』(2025年)に携わるなど、常識はずれの作品を次々に送り出している。配信オンリーという条件下であれば、普通なら企画を放り出すところ、そこに勝機を見出すという判断ができるのだ。
そう、そんな内容だからこそ、原作漫画の内容を知らない、国内外の多くの視聴者は度肝を抜かれたわけだ。とくに、海外で日本のアニメシリーズは、そもそも配信オンリーであることが少なくないため、その点では条件は同じで、内容のみが衝撃的だったといえよう。
こういった子どもに対する凄惨な描写を、娯楽作品の要素としていいのかという議論があるのも当然だ。とはいえ、本シリーズのテロップには、「数奇な運命に立ち向かうタコピーと子供たちの切なくもハッピーな物語を最後までご覧いただき、本作品をお楽しみいただけたら幸いです」と、記されている。あくまで、最後まで見た上で判断してほしいということなのだ。たしかに、第1話で視聴を断念した人と、ラストまで見届けた人では、本シリーズの印象は、かなり違ったものになっているはずだ。議論できる点も多い。
しずかちゃんには、小学四年生が経験するには、あまりに残酷な事態が、次々に襲いかかってくる。たしかにタコピーのハッピーなテンションや、日常に輝きを与えるような道具では、そんな現実に直面した子どもを救うことはできないだろう。それはある意味で、創作者全体への問いかけにもなっている。“本当に絶望し、真剣に死まで考えるような人を笑顔にする作品を生み出すことができるのか?”と。タコピーという存在は、ある意味で、そんな“問い”そのものだといえる。





















