中野有紗が『ぼくほし』で体現する10代の心 『PERFECT DAYS』『この夏の星を見る』を経て

中野有紗が『ぼくほし』で体現する10代の心

 朴訥とした雰囲気が漂う世界観を背景にして、登場人物たちの純粋なほどに澄んだ思いが流れていく。しかし、星空が映えるような美しい映像の中に立ち昇るのは、現実の学校でも確かに存在する切実な問題に他ならない。

 ドラマ『僕達はまだその星の校則を知らない』(カンテレ・フジテレビ系)第4話でも、生徒の成績や学習評価などの個人情報が漏えいした際の責任問題が問われた。教育現場では近年に限っても、200件近くの情報漏えい事故が起きている。これまでのエピソードで扱われた盗撮や隠し撮り、生徒間の恋愛トラブルも決して少なくはないだろう。

 そんな限りなくリアルな学校の現状を踏まえながらも、この物語ではそれぞれのキャラクターが抱える名前のつかない感情はありのままに映し出される。そして、スクールロイヤー(学校弁護士)である健治(磯村勇斗)の不安と興味が入り混じった純粋な眼差しは、繊細な心の機微やあいまいな人間関係をなんの色眼鏡もかけずに見つめてくれる。だからこそ、自然と溢れ出した生徒たちの素直な思いに触れて、毎話、こんなにも胸が温かくなるのだろう。

 一方で、未だに本心がこぼれ落ちないキャラクターもいる。温和な空気感を身にまとう生徒が多いなか、どちらかといえば反抗的な態度をとりがちな生徒会議長団の北原かえで(中野有紗)もそのひとりだ。

 先生たちに堂々と意見をぶつけ、健治に対しても「この弁護士さん、結構へっぽこですよ」と率直に言いのける。表情をあまり変えない分、心のうちが読みにくいキャラクターだ。

 そんなクールで大人びた顔を見せる北原だが、健治に「私たちもう高3です。必死です。切実です」と訴えかける姿には、どれだけ大人びていようと心をざわめかせる等身大な10代の心情が伺える。それは、北原を演じる中野有紗の芝居がもたらす影響も大きいだろう。

 第1話では、元々の女子高の制服を着続けたいと願う北原が、髪型を自由にしたいと手を挙げた藤村(日向亘)とともに、学校の校則を変えるために模擬裁判を起こす。しかし、健治のアドバイスをもとに図書室で必死に準備を重ねた原告代理人の主張は、理路整然と校則の必要性を述べる理事長・尾碕(稲垣吾郎)の毅然とした対応に跳ね除けられてしまう。呆気に取られた彼女の表情には、変わらない現実に対する悔しさが滲んでいた。

 特に中野の芝居が光ったのは、模擬裁判を受けて実施した校内アンケートの結果を職員室で報告する場面。制服に関する校則の改正を望まない生徒が7割だったことにホッとする先生たちを背にして、北原は残りの3割の気持ちはどうなるのかと呟く。折れない意思をセリフに宿しながらも、トーンの低さからは彼女の投げやりな気持ちが伝わってくるワンシーンだった。

 必死の努力が報われなかったとき、その何倍もの徒労感が襲ってくる。ある意味、彼女の姿はもっとも等身大な10代の実情が映し出されていると言えるのかもしれない。

関連記事

リアルサウンド厳選記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「コラム」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる