古舘伊知郎「一日でも長くしゃべっていきたい」 トークライブ「古舘と客人と」の存在意義

フリーアナウンサー/司会者として長年活躍し、近年はYouTube「古舘伊知郎チャンネル」でも発信しつづけるなど、“喋り屋”として確固たるポジションを築いてきた古舘伊知郎。2023年6月に新宿でスタートしたトークライヴ「古舘と客人と」が、現在は場所を移し、丸の内コットンクラブで定期的に開催されている。古舘が“いま話したい人”をゲストに迎え、台本なし、演出なしの“プライベートトーク”をオーディエンスの前で繰り広げる「古舘と客人と」。一人喋りのトークライブ「古舘伊知郎トーキングブルース」との違いや、ゲストの選定方法、「古舘と客人と」への思いについて古舘に語ってもらった。なおインタビューは、俳優の松重豊をゲストに迎えた「古舘と客人と vol.24」の公演前に行った。
「事前の準備はしっかりやって、本番前になるべくそれを捨てる」
――この『古舘と客人と』というトークライブは、そもそもどんな趣旨のもと、始まったイベントなのでしょう?
古舘伊知郎(以下、古舘):そもそものところで言いますと、僕の事務所のスタッフが、「トーキングブルース」のような僕がひとりでステージに立って、ガーッと2時間ぐらいしゃべるようなものは、もう多少なりともイメージがあるだろうと。ただ、ゲストを招いて、僕がトークする企画――それこそ昔は、『おしゃれカンケイ』(日本テレビ系/1994~2005年)をはじめ、そういうテレビ番組を、僕はいっぱいやってきたわけです。ただ、そのあと長いこと『報道ステーション』(テレビ朝日系/2004年~2016年)のメインキャスターを務めたことによって、そのイメージが、まったくなくなってしまったと。だったら、定期的にゲストを招いてトークをするような場所があっていいんじゃないのと。そういう提案をスタッフから受けまして。で、僕も「なるほど」と思って、2023年の6月から、まずは新宿の小さい会場で、この『古舘と客人と』というイベントをスタートさせました。いちばん最初のゲストは、爆笑問題の太田光さんで、そのあと2024年の3月から、ここ、東京・丸の内のコットンクラブに舞台を移してきたんですけど、そもそもこの場所は、「音楽の殿堂」というか、本来トークをするような場所ではないですよね。そういうところで、あえてトークだけをやるという、その違和感みたいなものが、ちょっと面白いかなって思ったんです。
――普段は、ジャズのライブとかをよくやっているような場所ですよね。
古舘:ちょっとオシャレな感じがあって、高級感もあるような。そういうのって、あるじゃないですか。いわゆる、由緒正しき割烹料理屋みたいなところで、もちろん、その店はプライドを持ってやっていて、普段はちゃんとした日本料理を出す店なんだけど、そこであえて「今日は蕎麦が食べたいな……」って無理を言ってみたら、ものすごく美味しい蕎麦を出してくれたとか。僕は、そういう粋な感じがすごく好きなんですよね。以前、歌手のJUJUさんにゲストで来てもらったことがあるんですけど、JUJUさんが「歌いましょうか?」って言っても、僕のほうが「いや、大丈夫です。今日はトークのイベントですから」とか言ったりして。この場所は「音楽の殿堂」なのにあえて歌ってもらわない。まあ、JUJUさんはすごく器用な人で、もちろんトークは抜群に上手いんだけど、実はモノマネで歌うのもすごく上手いんですよ。そっちはちょっとやってもらっても良かったかなって、そのあと反省したんですけど。
――(笑)。今、JUJUさんの名前が出ましたが、いつもどのような基準でゲストを選んでいるのでしょう?
古舘:昔から知っている人とか、会ってみたい人、しゃべってみたい人は当然お声がけさせていただいていますが、僕の主観だけで選んでしまうと、やっぱりどこか偏っちゃうと思うんですよね。だから事務所のブッキング担当やコットンクラブの人からの提案の中で、僕が知っている人であろうが、会ったことのない人だろうが、その人いいね!となったらお声がけするパターンもあるんです。
――これまでの出演者リストが手元にあるのですが、秋元康さん、斉藤和義さん、安住紳一郎さん、飯島直子さん……今年に入ってからは、笑福亭鶴瓶さん、リリー・フランキーさん、糸井重里さんなど、まったく法則性が見えないです(笑)。
古舘:もちろん古舘と誰を掛け合わせたら面白いとかスタッフは考えているとは思いますが、ただ、その法則性みたいなものは一切ないし、一貫性もなくて……そこがちょっと面白いかなって僕は思っているんですけどね。一貫性があると、ルーティーンみたいになってしまうところがあるじゃないですか。
――このイベントは、次に誰がゲストで呼ばれるのか、まったくわからない面白さがあると思います。
古舘:この場が「初めまして」だった方も多いですしね。たとえば、斉藤和義さん、宇多丸さん、春風亭一之輔さん、ピエール瀧さんも、そのときが「初めまして」だったし、JUJUさんも……あ、結構多いですね(笑)。
――(笑)。その場合は、やはり事前準備にかなり時間を掛けたりするのですか?
古舘:「初めまして」の方だけではなく、事前の準備はいつも相当な時間を掛けてやっています。そこはやっぱり、不安なんですよ。当日は、そのゲストの方のファンの方々もたくさん来てくださるわけで。だから、事前の準備はしっかりやる。で、本番前に、なるべくそれを捨てるようにしているんです。やっぱり「ライブ」ですから。自分の頭の中にある進行表の通りの順番でトークをしていったって、全然面白くないじゃないですか。ゲストのリアクションとか表情を見ながら話を転がしていったほうが、やっぱり面白い。まあ、そこに葛藤はあるんですけどね。事前に準備してきたことを現場でちゃんと出せば、それはそれで安心というか、そういう保守的な自分もいるわけです。ただ、そういうことにこだわっているから、お前はダメなんだよって、叱責する自分もいて……。それこそ、去年の11月にやったピエール瀧さんの回で言ったら、やっぱり『地面師たち』(Netflix)の話をしないわけにはいかないじゃないですか。すると、こっち側の自分が嘆くんですよ。「また、定番の話をしているよ、お前は本当につまらないな」って。
――いろいろ大変ですね(笑)。
古舘:そう、大変なんですよ。ここまでしゃべり手をやってきて、いつ死んでもいいとかほざいておきながら、何を保守的に、無難なインタビューをやっているんだって。ローカル局の売れないアナウンサーじゃあるまいし……って、そういうことは、あまり言っちゃいけないんですけど(笑)、実際いるんですよ。こっちが散々抱負をしゃべっているのに、締めの質問で「最後に抱負は?」とか平気で聞いてくるようなアナウンサーが。
――ちょっと耳が痛い話ですけど(苦笑)。
古舘:こういう取材の場はいいんですよ。そうじゃなくて、相手がアナウンサーの場合は、やっぱり僕はプロとして見ちゃうから、採点がすごく嫌らしくなるんです。「最後にファンに向けてひと言」とか、それまでずっとファンに向けてしゃべってきたじゃないかっていう。だからこそ、自分がそういうことをやっていると、リベラルな自分が嘆くわけです。ただ、そっちに行き過ぎると、今度はもう一人の自分が「お前、ええ加減にせえよ」と。「いい歳こいて、何をやってんの」と。「若いしゃべり手だったら、そういう暴走みたいなことも、相手は目を細めて笑ってくれるかもしれないけど、もういい歳なんだから、そこはちゃんと進行しないさいよ」って、ささやくんですよ。いつも、そういう感じなんですよね。
























