『あんぱん』が創作だから描けた釜次の幸福な最期 “思い通りに生きる”を改めて考える

朝田家の人々は、のぶが小さいときから東京に行きたがっていたからと東京行きを強く勧める。その根拠は子どもの頃ののぶの「四国の山越えて海越えてずっとずっと遠くの銀座という町に行って……」という台詞だ。しかし、そのあとの「パン屋さんでほっぺが落っこちそうなパンを買うておなかいっぱい食べるがやき」は忘れられている。
この台詞のあった第2話をいま一度観ると、のぶが結太郎とその話をしているのを背後で聞いているのはくら(浅田美代子)と釜次だけだ。見えないところに蘭子とメイコがいたとか、あるいは、釜次とくらから聞いたから、「パン屋さんでほっぺが落っこちそうなパンを買うておなかいっぱい食べるがやき」を蘭子たちは知らなかったとか、あとからいくらでも話を作ることができる。

ただ、第4話で、のぶは「うちの夢って何やろう」と父に問いかけている。そして「そりゃあゆっくり見つけたらえい。見つかったら思いっきり走ればえい。のぶは足が速いき。いつでも間に合う」と励まされているのだ。東京もパンものぶにとって夢ではなかったのでは?と気になってしまう。いや、これこそが現代的なドラマ作りなのかもしれないので尊重したいとは思う。瞬間のエモーションこそドラマだという考えには同意する。
「死守せよ。だが軽やかに手放せ」という英国の演出家・ピーター・ブルックの言葉がある。筆者はそれを徹底的に考え抜いて作り込んだ末、それをすべて取っ払って飛翔した瞬間のことを言っているのだと思っている。たとえ取っ払っても労力は無駄ではなくそれが熱となって残る。それが観ている者にはわかると信じている。また、「神は細部に宿る」という言葉も好きだ。これは誰が言ったか諸説あるらしい。すべては「死守」した「細部」があってこそ。やなせたかしにはそれがあると思う。やなせたかしのそこに肉薄してほしい。
■放送情報
2025年度前期 NHK連続テレビ小説『あんぱん』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00〜8:15放送/毎週月曜〜金曜12:45〜13:00再放送
BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30〜7:45放送/毎週土曜8:15〜9:30再放送
BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30〜7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:今田美桜、北村匠海、江口のりこ、河合優実、原菜乃華、高橋文哉、眞栄田郷敦、大森元貴、戸田菜穂、戸田恵子、浅田美代子、吉田鋼太郎、妻夫木聡、阿部サダヲ、松嶋菜々子ほか
音楽:井筒昭雄
主題歌:RADWIMPS「賜物」
語り:林田理沙アナウンサー
制作統括:倉崎憲
プロデューサー:中村周祐、舩田遼介、川口俊介
演出:柳川強、橋爪紳一朗、野口雄大、佐原裕貴、尾崎達哉
写真提供=NHK






















