『光が死んだ夏』が描く「人の本質とは何か」という根源的な問い 実存主義の視点で読み解く

人間の不安定な心の底をえぐる静謐なホラー体験
しかしながら、ヒカルが以前の光ではないことに気づいているのは、実はよしきだけではない。あるクラスメイトは「あなたはいったい、誰ですか」とヒカルに直接問いかけ、村の住人のひとりはよしきにこう忠告する。「町や村が徐々に狂いだしてるんよ。たぶん、あんたの友だちになっとるナニカの影響やと思う」「あっちのもんと混ざりすぎると人でいられんくなる」。
時を同じくして、不可解な事件が次々に集落を襲い始める。まことしやかに噂される不気味な伝承。日に日に増していく住民たちの不安と狂気。小さな集落には、目に見えない何かがじわじわと侵食していた。よしきがヒカルの正体に迫るにつれて、村全体を覆う不穏な空気も色濃くなっていく。

本作は、少年同士の絆を描くブロマンスとしての側面を持つ一方で、じわじわと恐怖を煽るホラー作品としての魅力も大いに備えている。作中に潜む恐怖は、いわゆるジャンプスケアのような突発的な驚かせ方とは真逆のものだ。日常に溶け込むわずかな違和感や理屈では説明のつかない気配、不気味な沈黙。「何かがおかしい」という強烈な不安感が、物語が進むにつれて視聴者の心の奥底に徐々に入り込んでくる。
さらにその恐怖が、単なる「怪異への恐れ」から「人間そのものへの疑念」へと深化していくところもまた、この作品の面白さのひとつだろう。よしきが抱く「目の前にいるこの存在は、本当に“光”なのか」という疑問は、そのまま「私たちは他者を何によって認識しているのか」という根源的な問いにつながるのだ。何がその人をその人たらしめるのか。実際のところ私たちは、他者という存在を、自分の思い込みによって作り上げているにすぎないのではないか。そんな人間の不安定な内面や認知の曖昧さを、本作はホラーというフィルターを通じて静かに突きつけてくる。
人ではない“ナニカ”が紛れ込んだこの世界で、よしきとヒカルが選ぶ道とははたして――。彼らがたどる結末を、ぜひ見届けてほしい。あなたもこの夏、見えない“ナニカ”が潜む世界に足を踏み入れてみてはいかがだろうか。
■放送・配信情報
『光が死んだ夏』
日本テレビ系にて、毎週土曜24:55〜放送
Netflixほかにて、毎週土曜25:55〜配信
Netflix世界独占配信、ABEMAにて見放題最速配信・無料独占配信
キャスト:小林千晃(辻中佳紀役)、梅田修一朗(ヒカル役)、小林親弘(田中役)、小若和郁那(暮林理恵役)、花守ゆみり(山岸朝子役)、中島ヨシキ(巻ゆうた役)、若山詩音(田所結希役)
原作:モクモクれん(KADOKAWA『ヤングエースUP』連載)
監督・シリーズ構成:竹下良平
キャラクターデザイン・総作画監督:高橋裕一
ドロドロアニメーター:平岡政展
音楽:梅林太郎
オープニング主題歌:Vaundy「再会」
エンディング主題歌:TOOBOE「あなたはかいぶつ」
アニメーション制作:CygamesPictures
©モクモクれん/KADOKAWA・『光が死んだ夏』製作委員会
公式サイト:https://hikanatsu-anime.com/
公式X(旧Twitter):@hikanatsu_anime
公式TikTok:@hikanatsu_anime





















