『わたしの完璧な秘書』にみる“お約束”の変化 “悪役俳優”イ・ジュニョクの甘い表情も

そして、『わたしの完璧な秘書』では、冷徹で傲慢な女性CEOカン・ジユン(ハン・ジミン) が、完璧な秘書であるユ・ウノ(イ・ジュニョク)に出会い、彼の優しさや温かさに触れていくうちに、閉ざされていた心が開いていき、過去のトラウマも克服して人間的にも成長していくというロマンスが描かれている。「こんな秘書がいたらいいな」という女性たちの妄想を全部詰め込んだようなお仕事ロマンスドラマなのだ。

ジユンは、創業してからわずか5年で、大手ヘッドハンティング会社を業界2位に成長させる凄腕の若手女性CEOだ。彼女の頭を占めているのは常に仕事のことばかりで、食事や睡眠もおろそかにし、仕事以外のことはからっきしなバリキャリ女性だ。そんなジユンの前に現れたのが、完璧男のウノだ。ウノは、6歳の娘を育てるシングルファーザーだが、娘の病気をきっかけに、元の職場で冷遇されて退職することになる。そして、ジユンの会社に期間限定の秘書としてやってくる。ロマンスドラマのセオリー通り、ジユンとウノの最初の出会いは最悪で、ふたりは互いにいがみ合う。しかし、ウノは、ジユンの仕事に対する姿勢と、自身を省みない姿を見て、甲斐甲斐しく世話をするように。その姿は、時におせっかいだとジユンをいらだたせるほどだ。至れり尽くせりの、「気が利いてちょっぴりおせっかいなお母さん」のような存在だ。

ジユンは、ウノをなんとか会社から追い出そうとするが、ウノの優秀で懸命なサポートにより、数々の危機を乗り越えていく。そうしてウノの人間性に触れていくことで、ジユンの心に変化が生まれていく。ジユンがウノとの関係を深めていく場所が、会社のテラスだ。この場所で、ジユンはウノに弱さを見せたり、愛を育んでいく。
本作の世界的ヒットの要因は、ジユンが惹かれていくのも当然なウノのスイートさだ。イケメンで、仕事をパーフェクトにこなすスマートさを持ちながら、娘を大切にする子煩悩さも併せ持つ。料理上手かつ綺麗好きであり、なにより人に優しい。身近にいたら好きにならずにはいられないだろう。互いに惹かれ合いながらも立場上、思いを抑え込むふたりだが、ウノにアタックする恋のライバル、チョン・スヒョン(キム・ユネ)の存在がふたりを触発する。
ジユンは、ウノに電話をかけて、「(スヒョンとの)映画を観ないでほしいの」と思いを伝えるのだが、その演出がロマンティックで、胸がキュンとする。ウノとジユンは互いを雑踏の中に探すのだが、光化門を背景に横断歩道の反対側に立っている。ジユンを先に見つけたウノの表情にときめく。ジユンを見つめる眼差しには、彼女への愛が浮かんでいる。彼女が誰かに電話をかけるのを見つめ、自分の電話が鳴った瞬間の表情、電話に出る前の意を決した瞳は、彼の胸の鼓動が聴こえてきそうだ。彼女の告白を聞いて光を宿す瞳……。イ・ジュニョクのロマンス演技のスイートさに観ていて鳥肌が立ってしまう。

そして、ジユンの告白を聞いて、「見てますよ」と優しいが毅然とした声で答えるウノ。見つめ合い、まさに“目と目で通じ合う”2人。その瞳が互いの好意を雄弁に物語っている。「今、行きます」とジユンに告げ、ウノは、ジユンのもとに歩き出す。ジユンへと向かうウノの鼓動の高まりも、彼を待つジユンのハートの破裂しそうな音も聞こえてきたのではないかと錯覚するほどのめり込んでしまう。秘書として常に控えめなウノが、告白は自分からというように、ジユンをいきなり抱きしめたのもすこぶるいい! 抱き合った後に、今度は待っていたジユンからウノにキスをするのも、彼女らしい選択だ。ジユンは決断したら即行動で、ウノへの愛が溢れた想いが伝わる演出で、最高にドラマティックだ。

本作では、ジユンの置かれている環境に共感する女性も多く、働く女性たちが抱える問題や、ウノのようなシングルファーザーが直面する子育て問題等も絡めて描いている。現代が抱える描写に共感する声も多いが、何よりも観るものの心をときめかせたのは、ハン・ジミンとイ・ジュニョクの抜群のケミによるふたりの甘い場面の連続だ。イ・ジュニョクのスイートさに、ファンがつけた彼の愛称である「ミルキーバニラエンジェル(ミルバエン)」が韓国では知れ渡り、チュ・ジフンや、ソ・ジソプも反応しているほどだ。さらに、このミルバエンのドリンクまで販売されるという展開となり、“イ・ジュニョクフィーバー”が起きている。本作を観ればその呼び名がピッタリなことにも納得できる。『神と共に』『犯罪都市 NO WAY OUT』など稀代のヴィランから、『秘密の森』シリーズ、『良いが悪い、ドンジェ』の人間味あふれる憎めない男ドンジェに、『わたしの完璧な秘書』のウノまで、多彩な表情を次々に魅せるイ・ジュニョクのさらなる活躍に期待している。
■配信情報
『わたしの完璧な秘書』
Lemino、Prime Video、U-NEXTほかにて配信中
出演:ハン・ジミン、イ・ジュニョクほか
演出:ハム・ジュンホ、キム・ジェホン
脚本:キム・ジウン
(写真はSBS公式サイトより)






















