『わたしの完璧な秘書』にみる“お約束”の変化 “悪役俳優”イ・ジュニョクの甘い表情も

『わたしの完璧な秘書』にみる“定番”の変化

 「韓国3大ヴィラン」の異名を持ち、陰のある悪役をさせたら天下一品のイ・ジュニョクがロマンスドラマ『わたしの完璧な秘書』で大旋風を巻き起こしている。(以下、『わたしの完璧な秘書』のネタバレが含まれます)

 『わたしの完璧な秘書』は、ハン・ジミン演じる冷徹なCEOが、イ・ジュニョク演じる優しくて完璧な秘書と出会い、2人が繰り広げるロマンスを描いた作品だ。韓国ドラマ界では、時代ごとの特徴を反映しつつも、長らく「冷たい財閥御曹司や社長が、温かく純粋な女性と出会い、人間的に成長し、恋に落ちる」というテーマが定番として描かれ続けてきた。

『わたしの完璧な秘書』(SBS公式サイトより)

 日本に韓国ドラマブームを巻き起こした『冬のソナタ』(2002年)では、建築デザイナーであるカン・ジュンサン/イ・ミニョン(ペ・ヨンジュン)が、記憶喪失によって別人となり、冷徹な態度でユジン(チェ・ジウ)と再会、過去の記憶と温かいユジンの存在によって、彼の心が解き放たれていく過程が描かれた。

  『フルハウス』(2004年)では、ワガママで冷淡な態度の人気スターのイ・ヨンジェ(RAIN)が主人公のハン・ジウン(ソン・ヘギョ)、『宮~Love in Palace~』(2006年)でもクールで気難しい性格の皇太子イ・シン(チュ・ジフン)がヒロインの明るさに触れて、少しずつ心を開いていく。

 さらに、『シークレット・ガーデン』(2010年)では、傲慢で潔癖症な性格のデパートのCEOキム・ジュウォン(ヒョンビン)が、ヒロインに出会い変わっていく。『相続者たち』(2013年)『キム秘書はいったい、なぜ?』(2018年)も、“心に傷を抱えた冷徹で傲慢な御曹司”が、温かなヒロインと出会い変わっていくというセオリー通りの展開が繰り広げられた。

『キム秘書はいったい、なぜ?』(tvN公式サイトより)

 しかし、女性の地位向上が進み、学歴を持ち、社会に進出する女性が増えたことにより、ドラマの内容も世相を反映したものとなっていく。従来の「財閥男性×恵まれない女性」のシンデレラストーリーを逆転させたものが、近年人気が高まっている。

 女性の自立とキャリア志向の黎明期に制作された、『ホテリアー』(2001年)では、非常に優秀で、仕事に情熱を傾けるプロフェッショナル女性総支配人ソ・ジニョン(ソン・ユナ)が、ホテルの経営危機を救うために奮闘する姿が描かれた。女性の社会進出と多様な関係性という点においては、『僕の妻はスーパーウーマン』(2009年)『逆転の女王』(2010年)が挙げられる。2作品ともキム・ナムジュが主人公を演じ、社会で奮闘する圧倒的な姿を見せている。

 『ボーイフレンド』(2018年)では、ホテルの代表を務めるチャ・スヒョン(ソン・ヘギョ)が主人公。政治家の娘で元財閥の嫁のスヒョンが派遣社員として働くごく普通の青年キム・ジニョク(パク・ボゴム)の純粋でまっすぐな性格に、惹かれていく。ジニョクの温かさや純粋さが閉鎖的だったスヒョンの心が開いて癒していく。

『ボーイフレンド』(tvN公式サイトより)

 そして、女性の絶対的な地位と男性の多様な魅力を描き世界的大ヒットで第4次韓流ブームを巻き起こし、今の世界的韓国ドラマ人気の礎を築いたのが『愛の不時着』(2019年)だ。主人公のユン・セリ(ソン・イェジン)は、若き財閥令嬢でありながらも、自ら立ち上げたアパレルブランドを成功させた実業家であり、圧倒的な行動力、決断力、そして危機を乗り越える強い精神力を持つ女性として描かれた。ヒョンビン演じるリ・ジョンヒョクは軍のエリートであったが、社会的な地位や経済力ではセリのほうが上という、従来の構図が完全に逆転している。

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