『キングダム 大将軍の帰還』は“継承”の物語だ 大沢たかおが体現した王騎将軍の生き様

『キングダム』大沢たかおの熱演に宿る凄み

 もっとも、本当に驚くのはその直後。柔らかい口調で「もちろん」と言った王騎が、ギッと前方をにらみつけると、絶やさなかった笑みもかなぐり捨てて、「摎の思いもですよ!」と吐き出す場面の豹変ぶりに、いったいどれだけの思いを内に溜め、その時が来るのを待ち望んでいたのかを知る。国の命運をかけて軍を率いる大将軍としての王騎が、最愛の女性を失った悲しみと怒りにとらわれた1人の男となる瞬間を、完璧に演じてのける大沢に圧倒される名シーンだ。

 こうなるともう、『キングダム 大将軍の帰還』という映画は王騎の独壇場だ。そもそもサブタイトルが『大将軍の帰還』なのだから、王騎が主人公然としていて当たり前だ。龐煖をあと一太刀というところまで追い詰めたときに、趙の軍勢が新たに現れ形成は一気に逆転する。一瞬、恐ろしい表情を見せた王騎はすぐにいつもの笑顔に戻り、「ンフフフフ、私の計算より断然速く到着するとはお見事です」と相手を讃え、「ンフゥ、20年ぶりですか、この感覚、久しぶりに……」と呟いてから予告編にもあったあのセリフ、「血が沸き立ちます」と強く言って、まったくひるんでいない姿を見せ、味方を安心させる。

 上に立つ者は弱さなど見せられないのだという手本を示した王騎は続けて、細かい指示を全軍に送って体制を立て直そうとする。武人としての強さを見せ、指揮官としての才を見せ、人間の男としての感情を見せた王騎のそばに立ち、ともに戦った『キングダム』本来の主人公、山﨑賢人が演じる信にとって、大いに学びの場となった戦いだった。その帰結として、これも予告編にある「これが将軍の見る景色です」という言葉につながり、敵も味方も視野に入れ、天と地もしっかりと見つめて戦いに臨む、将軍という立場の意味を信に伝えようとするシーンへと至る。

『キングダム』における“もうひとりの主人公”に 大沢たかおが体現した“天下の大将軍”

スクリーンを独占する大沢たかおを前に、震えながら涙を流してしまった。同じような体験をしたのは私だけではないはず。たとえ涙は出なく…

 その振る舞いが何を目的としたものだったかは、映画を観終わった人なり、原作の漫画を読んだりTVアニメを観たりした人なら分かっているだろう。サブタイトルにある『大将軍の帰還』という言葉を、そのまま受け止めることが難しいことを知っていただろう。映画で信と王騎の出会いから立場を超えた師弟関係を見守ってきた人には、複雑な感慨が浮かぶかもしれない。

 もっとも、観終われば確かに大将軍は帰還したのだと分かるはずだ。『キングダム』とは信という名の少年が、下僕という低い身分から自分の力で「天下の大将軍」になることを目指す物語だ。そして、『大将軍の帰還』で信は苛烈な戦場を生き延びて都に帰還する。次代へと受け継がれる物語。未来へと向かい歩き出す物語。そのことを言い表しているのだとするなら、『大将軍の帰還』は実に相応しいサブタイトルだった。

 観れば誰もが大将軍とは何かを知るだろう。その場所を目指す大変さに気づくだろう。それでも選び取った道に向かって信が、羌瘣や飛信隊の仲間たち、そして皇帝の嬴政と共に中華統一を目指す物語が、スクリーンの中で描かれ続けていってくれることを心から願うのだ。

■放送情報
『キングダム 大将軍の帰還』
日本テレビ系『金曜ロードショー』にて、7月11日(金)19:56~22:54放送
※放送枠64分前拡大 ※本編ノーカット放送 ※地上波初放送
出演:山﨑賢人、吉沢亮、橋本環奈、清野菜名、山田裕貴、岡山天音、三浦貴大、新木優子、吉川晃司、髙嶋政宏、要潤、加藤雅也、高橋光臣、平山祐介、山本耕史、草刈正雄、長澤まさみ、玉木宏、佐藤浩市、小栗旬、大沢たかお
監督:佐藤信介
脚本:黒岩勉・原泰久
音楽:やまだ豊
原作:原泰久『キングダム』(集英社『週刊ヤングジャンプ』連載)
©︎原泰久/集英社 ©︎2024映画「キングダム」製作委員会

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