『キングダム 大将軍の帰還』は“継承”の物語だ　大沢たかおが体現した王騎将軍の生き様

　原泰久の漫画を原作にした映画『キングダム』のシリーズ第4作となる『キングダム 大将軍の帰還』（2024年）が、7月11日に日本テレビ系の『金曜ロードショー』で地上波初放送される。大沢たかおが演じる王騎が見せる堂々とした将軍ぶりと、巨大な矛を振るっての迫力のバトルが詰まった映画を観終わったとき、誰もが将軍の見る景色を自分でも見たいと立ち上がり、歩き出そうとするだろう。

　圧倒的だ。人間としての大きさでも、武人としての強さでも、王騎ほどの存在は『キングダム』の中では唯一にして無二。だからこそ、『キングダム 大将軍の帰還』が公開されるにあたって、ファンはとてつもないものが観られるはずだという期待と、その後どうなってしまうのだろうといった不安が混ざった複雑な感情を抱いた。

　『キングダム』に全く触れたことのなかった人でも、『大将軍の帰還』の公開に向けて劇場などで上映された予告編を観て、いったい何が起こるのかといった興味をかき立てられただろう。予告編を通して大プッシュされている人物から放たれる圧力やにじみでる頼もしさに、劇場に行ってその人物のことを確かめてみたいと思っただろう。

　それくらい、スクリーンの中の王騎将軍はすごかった。馬上で立派な体躯を揺らし、太い柄のついた矛を軽々と担ぎながら、前方をにらみつけるようにして「血が沸き立ちます」と叫ぶ。「敵の数およそ10倍、皆の背にはこの王騎がついてますよ」と放つ言葉と重なって、同じような巨大な矛を持った男と切り結ぶ姿が見え、最後に「これが、将軍の見る景色です」という言葉を告げて終わる。

　俳優に詳しくなければ、あるいはそれなりに詳しかったとしても、やや太めで髪を伸ばした鎧姿の王騎を演じる人物が、大沢たかおだと気づかなかったかもしれない。そう言われれば鼻の形は似ているが、膨らんだ顔も体も、映画『沈黙の艦隊』（2023年）で原子力潜水艦を指揮して日本に対して反乱を起こした海江田四郎艦長とは違っている。大ヒットドラマ『JIN-仁-』で現代から江戸時代にタイムスリップする医者の南方仁ともほど遠い。普段より体重を20㎏も増量して撮影に臨んだというのだから、違って見えて当然だ。

　口調も、日ごろの演技に比べて文字通りに芝居がかっていた。こちらもロックシンガーともドラマ『下町ロケット』の財前部長とも違う、ぞろりとした衣装をまとって登場した吉川晃司演じる趙の将軍・龐煖と矛を交える姿をバックに、「ようやく会えましたねえ」と語る王騎の声音は武人というより高貴なマダムのよう。それでいて、ビジュアルは分厚くて大きい体を鎧で包んだこれぞ将軍といったもので、そのギャップにいったい何者だと関心を奪われた。

　そして本編ではさらに凄まじいものを目の当たりにすることになる。いつもより膨らんだ体を少しも重たいと感じさせず、矛をふるって龐煖と切り結び追い詰めるその強さ。修行してきたはずなのに圧倒される龐煖に向かって、「腑に落ちないでしょうねえ、武将とは厄介なものなのですよ。数えきれぬほどの戦場を駆け回り、数万の友を失い数十万の敵を葬ってきました。命の火とともに消えた彼らの重いが、この双肩に重く宿っているのですよ」と語る王騎からは、これが大将軍の重責にある者の強さなのだと感じ取れる。

　そのことを、大沢が役に合わせて整えた肉体と、余裕すら感じさせる声音によって龐煖や敵味方の兵士たちと共に、観客も納得させてしまう。すごい役者だとしか言い様がない。あるいはすばらしい役者だと。