三浦貴大が作品にもたらすリアリティ 『国宝』に欠かせなかった“観客”としての言葉

三浦貴大が作品にもたらすリアリティ

 三浦の演技には、リアリティがある。三浦の過去出演作を振り返ると、どのドラマ・映画においても自然体で、演技に無理がない。2018年に公開された映画『栞』では、理学療法士として働く雅哉を好演。雅哉は、患者たちの生と死の狭間で悩む日々を過ごしている。

 「順調に回復したら、歩けるようになるかな?」と質問する半身不随のラガーマンに対し、どう答えていいかわからず、苦笑いをしてしまう雅哉。ぎこちなさ具合も自然で、本当に雅哉という理学療法士が存在しているかのようだ。

 雅哉が吸い込まれるように大きな瞳で患者を見つめる姿は、目の前の患者を心配しているようにも映る。目の前の人というよりも、その人が抱える「その後の人生」までずっと見透かしているような目には、哀愁も漂う。

 2019年に放送されたドラマ『ひとりキャンプで食って寝る』(テレビ東京)では、ソロキャンプが趣味の大木健人を演じた。大自然の中で、土の匂いを感じながらキャンプを黙々と楽しむ姿は、ドラマというよりも、まるでドキュメンタリーのよう。それにしても、ハンモックの上でスナック菓子を頬張る、お酒を飲んでも品が滲み出ているせいか、どのシーンと切り取っても絵になるのは流石の一言だった。

 ドラマでは「心の内」を話すシーンも多いが、発声が丁寧なので聞き取りやすい。声は低さの中に爽やかさがあり、不思議と耳に残る。だからこそ、ひとつひとつのセリフが心に刻まれやすいのかもしれない。

 『国宝』の竹野も自然体の演技だったが、不思議と浮世離れした人のようにも映った。それは、三浦が作品の中で唯一、「観客」だったからなのかもしれない。『国宝』が煌びやかな世界を映す作品だったからこそ、三浦の客観的な目線が逆に目を引いた。

 映画のラストでは、国宝となる喜久雄に対し「あんなふうには、生きられないよなぁ」と呟く竹野。そのセリフによって、喜久雄は人間ではなく「国宝」になったことを改めて感じられる。そんな貴重なシーンだった。

 そのセリフは飄々としているのに、声は穏やかで落ち着いている。ずっと喜久雄を見守っていたことが伝わる温もりがあり、心が和む。竹野の存在は、厳しい歌舞伎の世界の「救い」にもなっていた。

 『国宝』の評判は上々で、1度のみならず2度、3度と足を運んでいる人も多いらしい。次に『国宝』を観る時は、喜久雄でも俊介でもなく、竹野目線でぜひもう一度堪能したい。

■公開情報
『国宝』
全国公開中
出演:吉沢亮、横浜流星、高畑充希、寺島しのぶ、森七菜、三浦貴大、見上愛、黒川想矢、越山敬達、永瀬正敏、嶋田久作、宮澤エマ、田中泯、渡辺謙
監督:李相日
脚本:奥寺佐渡子
原作:『国宝』吉田修一著(朝日文庫/朝日新聞出版刊)
製作幹事:アニプレックス 、MYRIAGON STUDIO
制作プロダクション:クレデウス
配給:東宝
©吉田修一/朝日新聞出版 ©2025映画「国宝」製作委員会
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