枝優花×山崎まどか、『We Live in Time』を絶賛 「生きていることにフォーカスしている」

枝優花が『We Live in Time』を絶賛

 6月6日に全国公開される『We Live in Time この時を生きて』の特別試写会が5月27日に東京・神楽座で開催され、上映後のアフタートークに映画監督の枝優花とコラムニストの山崎まどかが登壇した。

 本作は、A24が北米配給権を獲得したラブストーリー。主人公は、新進気鋭の一流シェフ・アルムート(フローレンス・ピュー)と、離婚して失意のどん底にいたトビアス(アンドリュー・ガーフィールド)。何の接点もなく、自由奔放なアルムートと、慎重派のトビアスという正反対の性格を持つ2人が、運命的に出会い、恋に落ちる。幾度も試練を迎えながらも、やがて共に暮らし始め、娘が生まれ、家族としての絆を深めていく。そんな中、アルムートの余命がわずかであることがわかり、共に生きるトビアスに驚きの決意を告げる。『ブルックリン』で第88回アカデミー賞作品賞にノミネートされたジョン・クローリーが監督を務めた。

 アフタートーク付き試写会に登壇したのは、『少女邂逅』で知られる映画監督の枝と、コラムニストの山崎。枝は開口一番、「30代の今の自分に刺さりすぎて……かなり共感しました」と、率直な感想を吐露。劇中の主人公たちと年齢が近いこともあり、人生の岐路に立つ彼らの姿が、自身の感情と強く重なったという。山崎も、「本作がただの恋愛物語ではなく、決断という大きなテーマもある作品」と語り、物語の奥深さに触れた。

 最初の話題は、ピューとガーフィールドの主演2人について。映画では30代の等身大の男女を演じているが、ピューは現在29歳、ガーフィールドは41歳と、実際には年齢差がある。しかし、その年齢差を微塵も感じさせない自然な演技に、枝監督は「アンドリュー・ガーフィールドが演じたトビアスのあり方が、私の中では希望であり、新しいと感じた」と熱く語る。続けて、「男女逆の物語はこれまでたくさん見てきました。でも本作は、男性がキャリアのために女性に変化を求めるような関係とは違って、トビアスが愛する人のために自分を譲り、愛する人を尊重していく。その姿が、現代で生きる上でぶち当たる壁を乗り越える、新たな男性像として映りました」と絶賛した。一方、山崎は、ピューの魅力について、「彼女自身の生命力や思い切りの良さが、映画のリアリティを後押ししていた。俳優として真実味がある存在」だと力説。Instagramで料理動画を配信する日常的な顔から、役作りのための体型変化を拒否したり、ヌードシーンにも自然体で臨む彼女の姿勢が、自立した女性であるアルムートのキャラクターと完璧に重なっていたと指摘。「彼女はカメレオン俳優ではないが、言動にリアルな存在感がある」と、その魅力を称賛した。

 さらに話題は、本作最大の特徴である、時系列をシャッフルした斬新な構成に。劇中では出会いや人生における喜び、悲しみ、最悪な日……これら全ての瞬間がバラバラに提示されていく。山崎は「そもそも人生は全部混乱しているようなもの。自分の人生が物語になるとして、今自分がどの地点にいるのかなんて分からない。ガーフィールド演じるトビアスは、計画的な性格で将来のことをしっかり考えているけれど、ことごとくうまくいかない。でも、それがすごくリアルで良かった」と語り、構成が生むリアリティを解説。さらに、「時間がシャッフルされることで、観客が2人の未来を先に知ってしまう瞬間が生まれて、その構造もとても面白かった」と分析した。

 枝も「ぐちゃぐちゃな時系列が、より一層人生の機微を際立たせていた」と同調し、「本作は、いろいろな展開がありながらも、ポジティブなものに向かっていく作品。人生どうなるか分からないけど、結局は今を生きていくしかないんだということが、この斬新な時間軸の描かれ方によってより深く理解できた」と話し、観客がまるで自分の記憶をたどるように物語を追体験できる構造だと語った。

 また、本作はいわゆる“余命もの/難病もの”作品とは一線を画す物語。枝は「病気そのものではなく、生きていることにフォーカスしている」と、そのポジティブなメッセージを強調。アルムートの生き方から、「どんなに辛い状況でも前を向いて生きる」ことの尊さを感じたと語った。山崎は、「完璧主義」や「SNS疲れ」が蔓延する今だからこそ、この映画が持つ“揺らぎ”が重要だと指摘。「ネット越しに他人の成功が見えてしまい、自分がそれを逃しているのではないかと思い込む」現代において、この映画は「何が成功で失敗かもわからない」人生の真理を突きつける。しかし、その真実を突きつけられたからこそ、観客は「失敗だらけに見えても、実はそうではない」と、自分自身の人生を肯定的に捉え直すことができる。アルムートが病に直面しながらも、ひたむきに生きる姿、そして彼女の意志が残された夫と娘へと受け継がれていくラストは、人生の「繋がっていく」力を強く示唆していると、本作の意義を熱く語った。

 イベントの終わりには、枝監督が「今日の観客には20代の方が多いと聞きました。世代が違う皆さんが、どんなふうにこの作品を受け取ったのか気になります」と投げかけると、山崎は「映画って、その1~2時間に自分の人生を預けるようなもの。失敗したら嫌だなと思う人もいるかもしれないけど、どんな映画にも必ず何か持ち帰れるものがある。今日のこの時間が、皆さんにとって良いものになっていたら嬉しいです」と、映画鑑賞の価値を改めて強調し、温かい言葉でイベントを締めくくった。

(左から)山崎まどか、枝優花

■公開情報
『We Live in Time この時を生きて』
6月6日(金)より、TOHOシネマズ 日比谷ほか全国公開
出演:フローレンス・ピュー、アンドリュー・ガーフィールド
監督:ジョン・クローリー
配給:キノフィルムズ
提供:木下グループ
2024年/フランス・イギリス/英語/108分/カラー/スコープ/5.1ch/字幕翻訳:岩辺いずみ/G
©2024 STUDIOCANAL SAS – CHANNEL FOUR TELEVISION CORPORATION
公式サイト:https://www.wlit.jp
公式X(旧Twitter):https://x.com/wlit_movie

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