『謎解きはディナーのあとで』の変わらないおもしろさ 櫻井翔のトリックスターぶりを堪能

『謎解きはディナーのあとで』櫻井翔を堪能

 構成もメリハリが効いている。本シリーズは、日本を代表する脚本家となった黒岩勉が脚本を手がけていた。定番の刑事ドラマやミステリーでは捜査パートに多くの尺が割かれるが、そこは「事情聴取中」と表示してばっさりカット。削られた尺は麗子と影山のやり取りに充てられる。転換を兼ねた閑話休題のディナーは本作のタイトルでもあるが、本当のメインディッシュはディナーの後の謎解きである。事件のあらましをダイジェストで知った視聴者は、謎解きのカタルシスをたっぷりと味わうことができるという仕組みだ。

 北川景子とともに本作のコミカルなテイストを決定づけているのが、椎名桔平演じる警部の風祭だ。風祭について書くには字数が足りないが、風祭というキャラクターを受け入れられるかは本作を好きになれるかの分岐点である。それくらいはっちゃけぶりがすさまじい。いぶし銀の大人の魅力を放つ椎名だが、この時期は本作以外にも『SPEC〜警視庁公安部公安第五課 未詳事件特別対策係事件簿〜』(TBS系)に出演するなど、チャレンジングな役にも取り組んでいた。

 『ルパン三世』で銭形ポジションの風祭のおかしさは、エンタメにふりきった本作を象徴している。軽薄で軽妙な“軽さ”は本作を経年劣化から解き放っている。各話のエピソードでは事件の背景にある人間模様が明かされ、人間ドラマに着地する。ただし、結果的にそうなるだけで、意図的に感動させたり、社会の闇を暴くわけではない。すがすがしいくらいエンタメに特化しているのが『謎解きはディナーのあとで』で、そのような作品群を生み出すパワーが当時のフジテレビにはあった。

 視聴者の目は節穴ではない。その証拠にドラマに続いて映画も大ヒットした。2010年代と現在では文脈が異なることを理解した上で、あえて言わせていただくなら、現在、地上波ドラマが失いつつあるスピリットが本作には流れている。そのことをどうかお忘れなきよう。

■放送情報
映画『謎解きはディナーのあとで』
フジテレビ系にて、3月29日(土)21:00~23:40放送(一部地域を除く)
出演:櫻井翔、北川景子、椎名桔平、中村雅俊、桜庭ななみ、要潤、黒谷友香、甲本雅裕、大倉孝二、伊東四朗(特別出演)、生瀬勝久、竹中直人、鹿賀丈史、宮沢りえ
原作:東川篤哉『謎解きはディナーのあとで』(小学館刊)
監督:土方政人
脚本:黒岩勉
©︎2013 東川篤哉・小学館/『謎解きはディナーのあとで』製作委員会

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