綾瀬はるかは“声”の芝居も唯一無二 『べらぼう』『野生の島のロズ』に与えた“奥行き”

また、大河ドラマ『べらぼう』では、「九郎助稲荷/語り」として作品に欠かせない存在感を放っている作品の舞台は、欲望が渦巻く江戸郊外の吉原。主人公・蔦重こと蔦屋重三郎(横浜流星)について説明する第1回のシーンでは、「金なし、親なし、家もなし」と辛らつな言葉が続く。
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ところが綾瀬の天真爛漫さ・甘さ・軽やかな声のお陰で、暗さは不思議と感じられない。その軽快な口調は、運命に翻弄されながらもなお、夢を諦めずに突き進む蔦重の性格をあらわしているかのようだ。
『べらぼう』は、蔦重と九郎助稲荷との掛け合いも見どころのひとつ。第8回では、瀬川/花の井(小芝風花)の思いに気付かず、蔦重は「ガキの頃からの知り合いだから、助けたい」と気の利かない言葉をかけてしまう。蔦重にとって自分は特別な存在ではなく、女郎の1人と知り「ははは……。馬鹿らしゅうありんす」と、力なく笑う瀬川の横顔が実に切ない。
寂しそうな表情で去り行く瀬川を見るなり、九郎助稲荷に「あいつ、何か怒ってねえ?」と語りかける蔦重。この鈍感な蔦重に対し、「どうして瀬川の思いに気づかないの?」と突っ込みたくなる。
そこで、九郎助稲荷は視聴者の思いを代弁するかのように「バーーーカ! バカ! バカ! 豆腐の角に頭ぶつけて死んじまえ!」「せぇの! このべらぼうめっ!」と心の叫びをぶちまける。怒っているはずなのに、声はとても甘くて甲高い。口調は、好きな男子をからかっているかのように、とってもキュート。まるで蔦重の鈍感ぶりを「仕方ない人なんだから、もぉ」という思いで、優しく包み込んでいるかのよう。
吉原に蠢く人間の欲望、逆らえない運命に翻弄される人々など辛いシーンも多い中で、綾瀬はるかの軽やかで甘い声は救いでもある。彼らをそっと陰で見守るような綾瀬の声を聞くたびに、夢に向かって奔走する蔦重の行く末に希望も感じられた。第9回では、瀬川が見受けを断るシーンでは、九郎助稲荷の低く重い語りがずしりと響いた。
コミカルなシーンもシリアスなシーンも、『べらぼう』を構築する上で欠かせない存在となっている綾瀬はるかによる語り。今後の物語にもどんな影響を与えていくのか。
■放送情報
大河ドラマ『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』
総合:毎週日曜20:00〜放送/翌週土曜13:05〜再放送
BS:毎週日曜18:00〜放送
BSP4K:毎週日曜12:15〜放送/毎週日曜18:00〜再放送
出演:横浜流星、小芝風花、渡辺謙、染谷将太、宮沢氷魚、片岡愛之助
語り:綾瀬はるか
脚本:森下佳子
音楽:ジョン・グラム
制作統括:藤並英樹
プロデューサー:石村将太、松田恭典
演出:大原拓、深川貴志
写真提供=NHK






















