『TATAMI』監督ガイ・ナッティヴ×ザーラ・アミールの思い「日本の文化を尊敬しています」

新宿ピカデリーほかにて公開中の『TATAMI』より、ガイ・ナッティヴとザーラ・アミール両監督による特別インタビューと新場面写真が公開された。
第36回東京国際映画祭で審査委員特別賞と最優秀女優賞を受賞した本作は、スポーツ界への政治介入や中東の複雑な情勢、イラン社会における女性への抑圧を背景に、アスリートたちの不屈の“戦い”を描いた社会派ドラマ。『SKIN 短編』で第91回アカデミー賞短編実写映画賞を受賞し、A24配給の長編版も発表したイスラエル出身のナッティヴと、『聖地には蜘蛛が巣を張る』で第75回カンヌ国際映画祭女優賞を受賞したアミールが共同で監督を務めた。
ジョージアの首都トビリシで開催中の女子世界柔道選手権。イラン代表のレイラ・ホセイニ(アリエンヌ・マンディ)とコーチのマルヤム・ガンバリ(ザーラ・アミール)は、順調に勝ち進んでいくが、金メダルを目前に、政府から敵対国であるイスラエルとの対戦を避けるため棄権を命じられる。自分自身と人質に取られた家族にも危険が及ぶ中、怪我を装ってイラン政府に従うか、それとも自由と尊厳のために戦い続けるか。2人は人生最大の決断を迫られる。
本作で監督・女優・キャスティングディレクターを兼務したアミールは、TVシリーズ『Nargess(英題)』で人気を博し、国民的女優として成功を収めていた。だが、第三者によるスキャンダルの被害者となり、2008年にイランからフランスへ亡命した。2018年に世界49以上の映画祭で上映されたアリ・アッバシ監督作『聖地には蜘蛛が巣を張る』で主演を務め、第75回カンヌ国際映画祭女優賞に輝いた。本作では、監督のマルヤム・ガンバリ役を演じながら、共同監督、キャスティングディレクターを兼任。2022年にBBCの「100人の女性」に選出された。
ナッティヴ監督は「柔道は非常に身体的で、人間らしいスポーツです。血を流さず、師の教えを大切しながら、技や様式を競う。美しく精神性の高いスポーツなので、普通なら理由なく棄権することは考えられません。映画で取り上げられることが少ないですし、イランとイスラエルの両国が非常に強いことから、やはり柔道を通して描くのが物語にとって自然な選択でした」と語る。日本公開を間近に控えて、「夢が叶ったかのような気持ちでした。日本の文化や伝統が大好きで、小さい頃から日本映画を見て育っていることもあり、日本の皆さんに私が監督した作品を見てもらえるのはとても光栄に思います」と喜ぶ。
幼い頃から日本映画に親しんできた監督は、「『七人の侍』、濱口竜介監督の『ドライブ・マイ・カー』や『千と千尋の神隠し』も大好きです。日本の監督ではありませんが、東京国際映画祭で会った『PERFECT DAYS』のヴィム・ヴェンダース監督にも、日本文化や伝統へのリスペクトという点で、とても影響を受けています。また、是枝裕和監督『万引き家族』や『怪物』、役者としても監督しても才能のある北野武監督の『菊次郎の夏』、『八月の狂詩曲』なども素晴らしい映画ですね。子どもの頃からイスラエルでは日本映画を観る機会があったので、このように好きな日本映画はたくさんあります」と、名匠から最近活躍する監督まで数々の日本映画を挙げる。「東京で映画の撮影を行いたいとも考えていて、脚本はちょうど今執筆中です。日本の全てにインスピレーションを受けていて、訪問した時の日本の皆さんや雰囲気、その時のフィーリングなど、すべてが大好きでした。だからこの映画は、日本の伝統に対する私のラブレターと言えるかもしれません」と日本を舞台にした新作の構想も明かした。
アミール監督も、「日本で初めて『TATAMI』が上映された東京国際映画祭には撮影中で行けませんでしたが、とても嬉しかったのを覚えています。最優秀女優賞や審査員特別賞をいただいたことももちろんですが、日本の皆さんにも観てもらいたい作品だと思っていたからです。この映画は、アメリカ・ジョージア・イランの柔道コーチからのアドバイスを参考にしているので、日本の観客の皆さんがどう観るのか恐さもありますが、柔道のスピリットがこの映画から伝わればいいなと思います」と語る。
「今はフランスに住んでいますが、日本の友人や知り合いもいて、日本のことをいろいろ聞くことがあります。私の尊敬するイランの監督アミール・ナデリも日本のことをたくさん語ってくれ、彼を通じて日本のことをよく知るようになったとも言えるかもしれません。私たちイラン人は日本の文化を尊敬しています。日本の黄金時代の映画をたくさん見て育っているので、黒澤明監督の映画は全て大好きです。自分で映画を作ったり役を演じたりする時は、黒澤監督から学んだ多くのことを思い出します。黒澤監督も『姿三四郎』で、柔道をテーマに映画を撮っていましたよね!」と、黒澤明らが活躍した日本映画の黄金期に誕生した数々の名作に敬意を表した。そして、「柔道の哲学やスピリットを尊敬していて、相手を傷つけずに体をぶつけ合うダンスのような動きが美しく、本当に習いたいなと思ってはいますが、まだ始められていません」と、主演のアリエンヌ・マンディ同様に柔道に取り組みたいと笑顔で語った。
あわせて、マンディ演じる主人公レイラ・ホセイニと、アミール演じるイラン女子代表チーム監督マルヤム・ガンバリのスペシャルカットも公開。スペシャルカットは、試合場に視線を送るレイラとマルヤムを横から捉え、それぞれにピントを合わせているほか、対戦相手を捕まえたレイラが足技を仕掛ける決定的な瞬間を撮った場面も。
ナッティヴ監督は柔道の対戦シーンについて、「幸運にも、ロサンゼルス最古の柔道道場を運営する、優れた柔道家であるフィリップ・モロッティと出会い、彼がザーラとアリエンヌを指導してくれたことが大きな助けになりました」と、スペシャリストの協力があったことを明かしている。アミール監督も「マルヤムを演じるだけでなく、レイラや他の柔道選手を指導するためにも、柔道に関するリサーチを行いました。柔道のトレーニングの一環として、イランの柔道選手にできるだけ近づけるよう、言葉遣いや身体の動きを学びました。イランのチーム特有のニュアンスを加え、それがリアリティを生み出すのに役立ちました」と語っている。
■公開情報
『TATAMI』
新宿ピカデリーほかにて公開中
出演:アリエンヌ・マンディ、ザーラ・アミール、ジェイミー・レイ・ニューマン
監督:ガイ・ナッティヴ、ザーラ・アミール
脚本:ガイ・ナッティヴ、エルハム・エルファニ
配給:ミモザフィルムズ
2023年/アメリカ、ジョージア/英語、ペルシア語/103分/モノクロ/1.78:1/5.1ch/原題:TATAMI/字幕:間渕康子
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公式サイト:https://mimosafilms.com/tatami/



























