『野生の島のロズ』は単純な感動作ではない 多面的なテーマやメッセージを読み解く

第97回アカデミー賞長編アニメーション賞にノミネートされ、受賞の最有力とされている、ドリームワークス・アニメーション映画『野生の島のロズ』が、日本でも公開された。原作は、ピーター・ブラウンの児童文学『野生のロボット』。無人島に流れ着いた最新型アシストロボット“ロズ”と動物たちのふれあいを描いた感動的な内容が好評を博し、観客の涙を誘っている。
しかし、本作『野生の島のロズ』はただ“泣ける映画”として作られた、単純な感動作とはいえない。ここでは、本作が原作を引き継いで描いた、さまざまなテーマやメッセージを読み解いていきたい。
主人公であるロズのデザインは、原作の挿し絵に比べ、『天空の城ラピュタ』(1986年)などの宮﨑駿監督作品のロボットを想起させるものに変更されている。実際に宮﨑作品からデザインを参考にしたのかは分からないが、もともと宮﨑駿は1940年代のアメリカのTVアニメ『スーパーマン』に登場したロボットのパロディとしてこれをデザインしているため、もし宮﨑作品を基にしているのだとすれば、本作のロズは、その面において“日本からアメリカに里帰りしたロボット”といえるだろう。
都市生活を送る人間のために作られたロズは、不慮の事態から無人島に漂着し、最初の目覚めを経験する。しかし、動物ばかりの島で、アシストロボットとして役に立てる相手がいないため、途方にくれることとなる。島の動物たちは、彼女を「怪物」と呼び、敵対的な態度をとるばかり。ロズは、自ら工場への返品依頼の信号を発信しようとするが、親をなくした雁の子どもが卵から孵る瞬間に立ち会ったことで、子どもが巣立ちの日を迎えるまで見守るアシストをおこなうことを決める。それは、ロボットとしての目的を果たす行為であるとともに、親の役割を担うことでもあった。
“キラリ(Brightbill)”と名付けられた雁の子は、小さな体ながらロズの献身的なサポートを得て、群れの“渡り”に参加するまでに成長を遂げていく。しかし、仲間たちの多くは“怪物”に育てられた彼を変わり者扱いし、排除しようとするのだった。
ここまでの内容に、興味深い点が多々存在する。まずは、動物たちの排他性だ。異質なものに警戒心をおぼえ、身を守るために攻撃的になるという反応は、動物の生存本能ゆえである。ロズは動物たちの言葉を理解し、コミュニケーションをとることに成功するが、彼女の姿や動き、話し方などに違和感をおぼえ、まともに接しようとはしない。
もちろん、本作で描かれるような複雑な言語を、現実の動物たちが使用できるわけではないだろう。あえて本作が、そういった設定を採用しているというのは、それぞれの種のコミュニティを、人間社会に近いものとして描写したいからだ。つまり本作は、無人島を一つの人間社会の象徴として描きたいということが分かるのである。そう考えればロズは、伝統的で保守的な住民たちのなかで住むことになった、移民や何らかのマイノリティとしての象徴だと理解することができる。
周囲とは異なる環境で育った子どもたちもまた、学校など新たなコミュニティに所属することで、排他的な扱いを受ける場合がある。キラリは、自分が他の雁たちと違う育ち方をしたことに負い目を感じ、ロズに反発的な態度をとってしまう。これは、例えば外国にルーツを持ち、マイノリティとして見られる子どもたちが、保守的な環境で経験しがちなことだ。
しかし、そんな思春期の反抗を受けながらもロズは変わらずサポートを続けていく。その姿は、やはり社会的なマイノリティとして新たな環境下で家族と生き抜こうとする人間の日々の奮闘を表現していると感じさせる。ロズに手を差し伸べる者は少なかったが、それでも彼女やキラリの力になろうとする少数の動物たちが現れる。
生き抜く知恵をキツネの“チャッカリ(Fink)”が、子育ての面ではオポッサムの“ピンクシッポ(Pinktail)”が、飛行テクニックをハヤブサの“サンダーボルト”が、そして群れのことを考える責任感や指針を雁の“クビナガ(Longneck)”がキラリに教え、ロズとキラリの生きる上での課題を乗り越える力になってくれる。人が社会で生きていくためには、ここで描かれるような、さまざまな人々の助けが必要であり、同時に偏見を乗り越えて他人を助けようとする人々の善意が貴重なものだということを、本作は描いているのだ。
日本を含め、世界のあらゆる地域において、このような、他とは異なる背景や特徴を持った人々が、コミュニティのなかで孤立したり排斥されるといった事態が発生している。本作は、まずそういったマイノリティの現実を、島とロボットの物語に置き換えて、観客に体験させるのだ。例えばこの物語を、はじめから移民の話として表現すれば、一部の観客は思い込みから否定的な反応をするかもしれない。しかし、ロボットと動物の間の関係としてそれを描くことで、観客の多くは自然にマイノリティの立場に立つことができるはずだ。
雁の子キラリは旅立ちのときを迎え、群れとともに海を越えて南下していくが、そこで群れは全滅のピンチを迎えることとなる。群れの仲間たちは、雁のコミュニティの常識のなかで育ち、自分たちの想定を超える事態に対処できず、パニックを起こすばかりだった。リーダーのクビナガは、新たな事態にも冷静さと思考力を保っていたキラリに、群れの命運を握らせることにする。その判断は功を奏し、群れはある種の“進化”を遂げ、事態を打開するとともに、さらなる強さを得ることとなるのである。
























