『ばけばけ』の“炎上描写”は他人事ではない 「マツエ、ジゴク」の真意を考える

『ばけばけ』の“炎上描写”は他人事ではない

 長かった松江での生活もそろそろ終わりが見えてきた。朝ドラことNHK連続テレビ小説『ばけばけ』第18週のサブタイトルは「マツエ、スバラシ。」。『日本滞在記』がついに書籍になって、ヘブン(トミー・バストウ)は松江を離れることを考えはじめていた。

 興味深いのはヘブンの『日本滞在記』ができたことがこの週のメインではないことだ。もともとモデルの小泉八雲の成功譚ではなく、妻が主人公で、夫婦の物語だと公式からはアナウンスされていたのでさもありなんだが。それにしても念願の本が出た場面は短めだった。過去の朝ドラのカップラーメンやウイスキーができるまでとはかなりの温度差があったように感じる。

 それよりじっくり描かれたのは、トキ(髙石あかり)のラシャメン(洋妾)疑惑。梶谷(岩崎う大)が書いた、松野家の借金が完済されたのはヘブンの財力によるものだという記事を読んだ読者は借金返済のためにトキはヘブンと結婚した、つまりラシャメンであると決めつけ突如悪意を持つようになった。ついこの間まで勝手に憧れたりちやほやしたりしていたにもかかわらず手のひらを返し、トキとヘブングッズは処分、トキには何も売らなくなり、自宅の庭にゴミを投げ込む嫌がらせを行う。

 トキは何者かに石をぶつけられ額に怪我をしてしまう。ヘブンはひどく怒り、木刀をもって仕返しに行こうとするが、トキは必死に止める。怪我までさせられて相当怖かったであろうけれど、ヘブンが暴れることでさらに反感を持たれることを心配したのだろう。

 息を潜めるしかない日々が続く。ところがある日、突然、潮目が変わる。江藤知事(佐野史郎)が食い逃げしたという記事(誤報)が出た途端、民衆は一斉に知事を叩きはじめ、トキには関わらなくなった。あまりに短絡的だが、現代のネットの炎上はまさにこんな感じで、火種に一斉に飛びつき大騒ぎし、また次の火種に移動していくものだ。このエピソードは現代批評にもなっていた。

 燃えるニュースが正しいものであれば、怒りをぶつけるのもやむなしではあるが、新聞記事が正しくないから困りもの。トキが毎日洋食を食べているとか、貴婦人のように微笑んだとか、梶谷は話を盛った記事を書いていたし、江藤知事も食い逃げなどしていなくて、梶谷は事実確認を怠っていた。ヘブンのおかげで借金返済できたことは事実であったが、誤解を招くような記事の出し方はいかがなものか。

 ヘブンの記事が人気だから毎日、連載することにして、毎日、無理やり記事を書き続け、それも大げさに盛ってしまう。トキとヘブンであろうと、知事であろうと、センセーショナルな題材に飛びついて、あれこれ書く。自分の思想、自分の信念はない。あるとしたら、新聞が売れる、それがすべてである。そんな梶谷の仕事の仕方は、ネットの記事を書く筆者のような記者たちにはきっと思うところがあっただろう。

 ドラマの視聴者のなかには、「マツエ、スバラシ。」というタイトルのわりに松江市民がそろって浅はかに描かれていて残念だという声も散見された。確かに、なかには最初からトキをもちあげず懐疑的な人がいてもいいし、暴走を止める人がいてもよかったかもしれない。あ、ひとりいた。昆布をステーキとか言ってトキにおまけだと手渡していた人は最初からトキに懐疑的だったのかも(第77話)。

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