事件の生き証人ジェフリー・メイソンが『セプテンバー5』を語る 緊迫の本編映像も

2月14日より公開となる『セプテンバー5』の本編映像と、本作の主人公のモデルとなったジェフリー・メイソンのインタビューコメントが公開された。
本作は、今なおオリンピック史上最悪の事件として語られるパレスチナ武装組織「黒い九月」による17人が死亡したテロ事件を突然生中継することになったTVクルーたちの視点で、事件の発生から終結までの1日を90分間ノンストップで描き切る。放送のルールが未だ明確化されていない時代。全世界が生中継を通して、初めてテロリズムの脅威を目の当たりにしたその日、「報道の自由」報道される被害者の人権」「報道がもたらす結果の責任」といった、現代社会を生きる私たちにも通じる問いが投げかけられる。
本作がいち早く上映されたヴェネチア国際映画祭では、「すべてのレベルで傑作」と称賛を受け、一気に賞レースの筆頭候補に。第82回ゴールデングローブ賞作品賞(ドラマ部門)のノミネートに続き、第97回アカデミー賞脚本賞にもノミネートされた。
キャストは、『パスト ライブス/再会』のジョン・マガロのほか、『ニュースの天才』のピーター・サースガード、『ありふれた教室』のレオニー・ベネシュらが名を連ねている。『HELL』、『プロジェクト:ユリシーズ』のティム・フェールバウムが監督・脚本を務め、ショーン・ペンがプロデューサーを担当した。
ABC中継のコーディネーション・プロデューサーだったメイソンは、当時32歳。スポーツ報道の枠を超えた歴史的な報道の最前線に立たされた彼は、どのように事件と向き合い、何を感じたのか。
「ミュンヘンに入る前、私たちは入念な準備をしていました。しかし、まさかオリンピック中継がテロ事件の生中継へと変わるとは、夢にも思っていませんでした。あの日、事件が起きた瞬間に感じたのは、『これは人生で最も重く、大変な仕事になる』という覚悟でした」
テロ事件は突如として発生し、ABCスポーツ局のクルーは急遽、22時間に及ぶ生中継を実行することとなった。その中でメイソンが痛感したのは、想像したことないほどの報道の責任の重さだった。
「私たちの生中継の映像を見ていたのは、一般の視聴者だけではありませんでした。人質になった選手の家族も、自宅の居間で事件の推移を見守っていたのです。そのことを知ったとき、私は自分たちが担うべき責任の重みをまざまざと実感しました」
さらに、報道が事件の進展に与える影響の大きさにも直面することになる。報道の自由と安全確保のバランスを取る難しさを思い知らされたのだ。
「警察から、生中継しているカメラを切るよう指示された瞬間、ハッとしました。私たちの中継は、世界中、誰でも見ることができる。テロリストたちにも見られているかもしれない。これは本当に慎重にならなければと」
生中継開始から数時間後、ABCニュースが報道を引き継ぐべきかという議論が持ち上がった。しかし、スポーツ部門のトップであるルーン・アーレッジは、断固としてそれを拒否した。
「『私たち以上の報道を、ニュース部門ができるはずがない』とルーンは言いました。私たちは事件現場から100ヤード(約91メートル)も離れていないところにいました。スポーツ中継に特化した数十人ものチームでした。その状況を考えれば、ニューヨークにいるニュース部門よりも、私たちが続けるべきだと判断したのです」
結果として、ABCスポーツ部門は22時間にわたり事件を生中継し、歴史に残る報道を成し遂げた。
メイソンは、本作の脚本を初めて読んだときの衝撃について、「当初は、事実を並べただけの単なるテロ事件の記録映画のようなものかと思っていました。しかし、脚本を読んで驚いたのは、非常に深くリサーチされていることと、そこに描かれていたのが『人間の物語』だったことです。事件の背景や経過だけでなく、私たちが目の前の出来事にどう向き合い、何を感じたのか。私たちの心情が深く描かれていることに感心しました」とコメント。
さらに、本作の意義については、「私は自分の目で見たことを語れる数少ない一人です。あの日、中継スタジオにいた人のほとんどは亡くなってしまって、もういません。だからこそ、あの日あの場にいた仲間たちの目と心を通して伝えることができるこの機会は、私にとって特別なものです。『セプテンバー5』は、9月5日に何が起きたのかを忠実に描く物語です。事件が次第に大きな悲劇へと発展していく中で、私たちは手元の技術を駆使し、正確な報道を目指して奮闘しました」と語った。
また、メイソンは現在のメディアの在り方について、「今は業界全体が、情報を発信する責任をより理解するようになったと思います。テレビにおけるスポーツ中継は、基本的に生放送です。ということは、何が起こってもおかしくない。だからこそ準備が肝要であり、今はその教訓が活きています。私たちは正直に真実を追求し、徹底した報道を行う責任がこれまで以上にあります。『セプテンバー5』は、事件の真相を伝えるだけでなく、それが描けていると確信しています」とコメントを寄せた。
あわせて公開された本編映像は、メイソンの証言にもあった、生中継を中止させるために警察が乗り込んでくるシーン。自分たちでこの事態を世界中に生中継すると決めたスポーツ局のクルーたち。スタジオにあったカメラを外に持ち出し、テロリストたちが立てこもる選手村にカメラを向けた。すでに2人が殺害され、まだ9人が人質になっている。しかし、彼らはある重大なことに気付く。選手村のテレビは、どの国際放送も見られるようになっているため、ABCも例外なくテレビに映し出されるのだ。スタジオに一気に緊張感が走る。テロリストたちが潜む部屋の窓をズームすると、カーテン越しにテレビの光がちらついていた。程なく、警察無線がスタジオにも入ってくる。警察も同様に生中継を見ていたのだ。「ABCの放送を止めろ!」という声とともに、スタジオに警察がなだれ込んで来むシーンが、この映像で見ることができる。
■公開情報
『セプテンバー5』
2月14日(金)全国公開
監督・脚本:ティム・フェールバウム
出演:ジョン・マガロ、ピーター・サースガード、レオニー・ベネシュほか
原題:September 5
配給:東和ピクチャーズ
©2024 Paramount Pictures. All Rights Reserved.
公式サイト:https://september5movie.jp/